静かな平日の勤務終了後。
病院の小会議室に、カラフルなボードゲームのパッケージが響くように置かれた。
「今日こそ決着をつけるわよ」
真壁沙耶はカードをシャッフルしながら淡々と言う。
※『診療科ガチャ』とは?
医療現場をテーマにした戦略型ボードゲーム。
プレイヤーは“診療科”の擬人化キャラを引いて、トラブルカードに対応しながら「診療貢献値(DP)」を稼いでいく。
診療科ごとに異なるスキルがあり、連携や裏切り、ロールプレイ要素が問われる“カンファレンス型バトル”である。
「“最終決戦”って副題ついてるだけありますよ! 今日こそ神谷さんから勝ちを奪ってやりますから!」
篠田葵は拳を握りしめ、石弓恵那は笑顔でカフェラテ片手に着席。
「ふふっ、私も今日は勝ちたいなぁ、神谷さん♪」
「……なんだかんだでみんな楽しんでるんだな」
自然な動きで神谷の隣に座り、“さりげなく”腕が触れそうな距離感を保つ恵那。
(この女……さりげないのが一番怖い……)沙耶は恵那のほうへ冷たい視線を送る。
(あっちに座ればよかった……)神谷の横の席に座る恵那を残念そうに見る葵。
「あっ!じゃぁ勝った人が神谷さんと猫カフェに行くってのはどうですか?」
突然の恵那からの提案。
「猫カフェ行きたいです!!」
葵が喰いつく。
「猫カフェ私行ったことないから行ってみるのもいいわね」
少し控えめに乗り気な沙耶。
「えっ俺が勝った場合はどうなるんだ?」
「猫カフェにいけます!」
恵那は無邪気に笑うとカードを配りだした。
カードを配り終わると、各自手札を確認する。
「じゃ、戦略ターンいきますね!」
恵那が進行を進める。
篠田が“救急科”スキル【緊急対応】を発動。
沙耶は“麻酔科”カードを裏向きに伏せたまま微笑む。
「私も連携しようかしら。DPは分け合いましょう……ね、篠田さん」
「はいっ! 沙耶さんと協力なんて、これはもう無敵じゃ──」
だが──
次の瞬間、沙耶が伏せていたカードをひっくり返す。
「発動。【無痛空間】。このターン、あなたのスキルは封じられたわ」
「……え?」
「DPも──私が頂く」
「えぇぇえええっっ!? 裏切り!? 今の完全に味方ムーブでしたよね!?」
沙耶は涼しい顔のまま微笑む。
「篠田さん、読み合いは苦手みたいね」
(性格悪すぎですね、沙耶さん)
一方そのころ、神谷と恵那は穏やかなプレイ。
「神谷さん、これトラブルカード回避できますよ。ほら、この診療科のスキル、使います?」
「……助かる」
さりげなくカードを交換し合う手が触れそうになり、恵那が小声で囁く。
「私が負けても別の日に猫カフェ連れてってくださいね♪」
「それ……勝負の意味なくなってるぞ」
恵那はくすくすと笑いながら、スコアボードに並ぶチップを揃える。
(今のうちに稼いでおいてもらおう……こう言ってれば、たとえ神谷さんが一位になったとしても、私が誘いやすい状態になる)
ゲームは滞りなく進行し、最終ターン
現在スコア:
沙耶:9点(圧倒的首位)
葵:4点(裏切り被害で落下)
神谷:5点
恵那:4点
最終トラブルカード:「レセプト監査祭」
※対処できるのは、「放射線科」+「精神科」コンボか、「外科の兄貴(特別カード)」のみ
沙耶は余裕の笑み。
「このトラブルカード、誰も処理できない。つまり……私の勝ち」
そのとき、神谷が一枚カードを伏せた。
「……処理する」
沙耶の目が細くなる。
「それ、普通の“放射線科”では対応できないはず──」
「拡張カード。《記録参照:疑義照会》」
※相手のカード1枚をコピー+トラブル処理スキル獲得
「そのカード……相手のカードを一枚指定してコピーできるカード。ただ、指定したカードが無かった場合全ての点数を失うはずじゃ」
「爪が甘かったな……沙耶」
「沙耶、お前の精神科のカードを指定する!」
「……っ」
(なぜ!私が精神科を持っているとわかったの!)
「”レセプト監査祭”のトラブルカードが出た瞬間に勝ちを確信したみたいだな……
”外科の兄貴(特別カード)”が既に使用されている。勝利を確信するには、お前が精神科を持っていないと、その勝ちというワードはでてこない……簡単な消去法だ」
神谷はゆっくりとDPを置いた。
「10点到達。俺の逆転だな」
「ううぅぅ……沙耶さんに裏切られ、神谷さんに追い抜かれ、今日の私は一体……」
「仕方ないわ。これが現場の“カンファレンス戦略”ってやつだから」
沙耶はカードをしまいながら、わずかに悔しそうな視線を神谷に送った。
(……やっぱり、あなたは手強いわ。気持ちの読めない、放射線科のスナイパー)
恵那は神谷の背中に向かって小さくつぶやいた。
「さすが!神谷さん」
「でも、神谷さんが一位になったら、誰といくんですか?」
葵は机に顎をのせた状態で言った。
「じゃぁ、一人で行くかな」(正直一人でもいってみたい……)
「いやいや!猫カフェに一人でいくんですか!!」
恵那はすかさず突っ込みをいれる。
「蓮が一人が嫌なら、私がついていくわ。私行ったことないし」
しれっと一緒に行こうとする沙耶。
「もう、めんどくさいんで4人でいきましょ!!」
葵が切り出す。
「いや、勝負の意味がないぞ」
「まぁまぁそう言わずに仲良くいきましょうよ」
恵那は神谷の肩をたたき笑った。
「……そうね、まぁみんなでいくのも悪くないわね」
「まったく……結局か……」
【あとがき】
恒例の作者の趣味コーナー!今回はボードゲームで遊ぶ神谷さん!
神谷さんは猫カフェに個人的に行きたいようなので、早く行かせてあげないといけません!
ボードゲームは実際にはないものを勝手に作ったので、ちゃんと遊べるように作ってみても面白いかもしれません(笑)
次回「神谷さん!猫カフェに行く!」
【ゲーム構成】
内容物
キャラカード(診療科): 16枚[各診療科に固有スキル付き]
トラブルカード: 30枚[院内イベント(例:カルテ障害、入院調整)]
ガチャチケット: 24枚[診療科を引き直すのに使用可能]
連携ボーナス表: 1枚[特定科同士の連携で効果UP]
カンファレンスボード: 1枚[一時的な協力 or 妨害ゾーン]
DPチップ(診療貢献値):50枚[得点として使用]
【診療科キャラクター(例)】※擬人化・属性付き
(診療科,キャラ設定,スキル例)
・整形外科 無骨な兄貴肌:力技で解決型
『骨太パワー』トラブルを無視してDPを得る
・精神科 寡黙な双子キャラ(兄:冷静、妹:感受性)
『心の壁』妨害イベントを一度無効化
・小児科 元気な妹系、患者に大人気
『なだめスキル』全員のストレスを-1
・内科 知的メガネ男子、情報で勝負
『論理の処方』手札を整理しボーナス獲得
・救急科 熱血漢、突発イベントに強い
『緊急対応』トラブルカード即時処理可能
・放射線科 無口なスナイパー風キャラ
『精密読影』他プレイヤーの手札を確認できる
・麻酔科 クール系参謀タイプ
『無痛空間』次のイベントをスキップ可能
・眼科 美的センス◎な芸術肌キャラ
『視界クリア』手札全交換&DP+1
