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「ヤツらは仲間を見捨てない」 第558話 組合長の髪の毛が (旧バージョン)



(本話は旧バージョンとなっております)


「これはこれは侯息女殿下……。ご用件を伺っても?」

「わたくし、冒険者になりに来ましたの!」

 元侯息女が俺たちと共に入室してきたのに気付いて慌ててて立ち上がったベルハンザ組合長に、ティアさんの言葉が突き刺さる。残機がそれほどでもない寿命と毛髪が心配だ。

 臨時総会の時に使った大講堂の隣にある控室は組合事務員の人たちで騒がしかったのに、俺たち、というよりティアさんの乱入によって、現在は沈黙状態になっている。事務員さんたちも全員が立ち上がり、不動の姿勢だ。そりゃあなあ。

 第七会議室からこちらに場所を移した組合の人たちは、どうやらここを『シュウカク作戦』の本部にしたらしい。
 たくさん置かれたテーブルの上には雑然と書類が並び、壁には四層の地図と作戦の舞台となる新区画の拡大図が貼られている。アウローニヤでクーデター直前の談話室がこんなだったな。
 壁際のテーブルには軽食や飲み物も乗っているし、食事もちゃんとしているようだ。

 まあ、作戦決行に向けて熱くなっていた空気は、現在固形化されているわけだが……。
 愕然としているマクターナさんは、この先の展開が見えているのだろう。冒険者となったティアさんが、今後どこの組に所属する気なのかを。

 ところでここ、組合の機密の塊みたいになっているんだけど、作戦に参加を要請されている俺たちはさておき、如何な侯爵令嬢とはいえ、ティアさんが入ってもいいのだろうか。
 現状、ティアさんの宣言のせいで、入室の可否どころじゃなくなっているけど。


「あ、あの。それはどういう意味でしょうか? 侯家で使われる符丁について、私はとんと──」

「言葉の通りですわ。わたくし、リンパッティア・ペルメッダと、こちらのメーラハラ・レルハリアは冒険者となり、『一年一組』に所属いたしますの!」

 何とか現実から逃避しようとした組合長だったけど、ティアさんからは逃げられない。再び組合長をはじめとする組合職員さんたちが硬直した。言葉に宿る力って、本当にあるんだな。

 メーラさんを引き連れたティアさんは、なすすべもないグラハス副組合長やバスタ顧問の脇を通り抜け、ベルハンザ組合長の前に立つ。背後に傲岸不遜という看板が一瞬見えた気がするくらい、堂々と、そして泰然とした姿勢だ。

「書類は揃っていますわ。それと、登録手数料もですわね」

 ティアさんはメーラさんに持たせていたカバンから書類を受け取り、組合長の座っていたテーブルに積み上げる。追加で大金貨も十枚。多いって。

「あとは【神授認識】だけですわね」

 何気に努力家なティアさんは、事前に冒険者登録の手順を学び、必要な書類も全て完備してしまっていたのだ。

 最終的な登録判断は組合長か副組合長の権限になるとはいえ、詰んでるよなあ、これ。


「こ、これはっ!?」

 作戦の資料と、ティアさんがぶちまけた書類とで雑然としてしまったテーブルを眺めたベルハンザ組合長の視点が、とある箇所で固定された。

 置かれた書類の中にはこれまで三度あったティアさんと一緒にしてきた迷宮の活動記録やら、さっき書き上げたばかりの|滝沢《たきざわ》組長による推薦状もある。加えてティアさん自身による自己の戦闘記録なんかも。
 ティアさんがちゃんと自分でこういう書類を作っていたのは、俺たちもついさっき知ったばかりだ。

 どうにもティアさん、どこかで冒険者になるのを狙っていた感じなんだよな。婚約破棄と、自身の階位が十二になったことで俺たちにレベリング依頼を出すのに言い訳が必要になるタイミング。トウモロコシについてはイレギュラーとして、なるほどと思えるところなのだ。

 さておき今はワナワナと震えているベルハンザ組合長の心臓を心配しよう。なにせ白ザビエルさんが見ている書類は──。

「爵位返上願いに国籍離脱届……」

「何ですと!?」

 組合長のブツブツとした呟きを聞いたバスタ顧問が大声を出し、石化が解けたかのようにダッシュでテーブルに向かった。
 確かに見せられた中で一番にヤバい書類なのは、俺にも理解できる。

「国印と……、侯家印が押されています」

「確かなのか? バスタ顧問。偽造では」

「いえ、本物です。ですが侯息女殿下が持ち出し、ご自身で捺印された可能性は、捨て切れませんな」

「あのお方ならば……、あり得るか」

 あのお方とやらを目の前にして、必死の表情で書類を確認しているバスタ顧問とベルハンザ組合長だけど、メーラさんこそ眉をしかめた程度で、当のティアさんは涼し気なものだ。
 バリッバリの不敬が開催されているようにも聞こえるのだけど、ティアさん的には勝利を確信しているし、そもそもすでに平民だからなあ。なるほど、不敬罪は成立しないか。

 そう、ここにいるティアさんとメーラさんは国籍を持たない平民で、そんなお二人が書面を整え冒険者になることを申請してきたのだ。断ればどうなるか。
 侯爵家に泥を塗るだけでなく、元侯爵令嬢を理由なく、いや、むしろそれこそを理由に冒険者として認めないなど、できるはずもない。ましてや彼女たちは十二階位の前衛職で、『一年一組』の推薦状を携えているのだから。

「無論、正真正銘の本物ですわよ? なんでしたら国に確認してくださっても構いませんわ」

 余裕綽々のティアさんにそこまで言われてしまえば、疑うという行為すら憚られる空気になってしまう。

「それよりも、何やら|戦《いくさ》の準備でお忙しいのでしょう? 急いで冒険者登録を終わらせ、お仕事に戻られることをお勧めいたしますわ」

 絶賛お仕事を妨害中のティアさんが、勝利宣言にも取れる発言だ。容赦ないなあ。


「殿下は本気と」

「すでに殿下と呼ばれるような存在ではありませんわね。冒険者となることを望む、ただの平民ですわ」

 ティアさんにトドメを刺されたベルハンザ組合長が、黙り込む。

「そも、前例の無いことでもないですわ。お爺様の代に家を出て冒険者となられた方がいらっしゃいましたわね」

「存じ上げておりますが、アレは四男です」

「そうそう、組合長と同世代でしたわね」

「殿下……、リンパッティア様は、一人娘ではありませんか」

「辺境伯時代までさかのぼれば──」

 ティアさんと組合長のやり取りから察するに、どうやらここがペルメールだった時代も合わせ、侯爵家や辺境伯家から冒険者となった人がそれなりにいたらしい。

 直近では先代侯王の弟さんか。冒険者を貴ぶ気風のあるこの国で、四男ともなればアリなんだろう。
 むしろ国の頂点にある家の一員が冒険者になることが、危険な商売であるからこそ業界の士気向上に繋がる気もする。もちろん当人のお人柄にもよるのだろうけど。

 そういう意味ではティアさんって、冒険者を煽るのに滅茶苦茶向いているんじゃないだろうか。
 同時に、もしもがあったならば、どれだけの騒動になるのかが問題なのだ。


「侯王はウィル兄様が継ぐことが確定していますわ。長女も次女も関係ありませんわよ。アウローニヤへの輿入れが流れた今、わたくしは暇を持て余していますの」

「冒険者は、遊びではありませんぞ?」

「わたくしの行為を遊びだとして、組合長はどう思いますの?」

「……全力で、精一杯遊び抜くのでしょうね」

 ティアさんが露悪的に煽るが、ベルハンザ組合長はため息をこぼすように答えを述べる。ティアさんのコト、わかっているんだなあ。

 魔獣が増え続け、新種のトウモロコシまでもが出現した今、侯爵家の一人娘が冒険者になるというのはマズいと組合長は考えている。ティアさんは迷宮に向かないとされる【強拳士】というのもあるし、それに加えて受け入れるのが『一年一組』ときた。
 ティアさんの気性を知っている人ならば、彼女が『シュウカク作戦』に当然のごとく参加するところまで見えてしまうだろう。

「積年の夢でしたのよ。技を磨き、階位を積み重ねた拳士がどこまでいけるのか。この身でもって確かめたいのですわ!」

 この部屋にいる全ての人間に叩きつけるように言い放ったティアさんの声に、組合長は言葉を失ってしまった。


「ご安心していただけるかどうか、絶対の自信があるわけではありませんが、彼女たちは『一年一組』が責任を持ってお預かります」

 少しの間を置いてからティアさんの横に並んだ|滝沢《たきざわ》先生が、ベルハンザ組合長に語り掛ける。
 覚悟が決まったとなれば、先生は強い。キリっとした表情で組合長をただ見つめるのみだ。

「大丈夫、なのかね?」

「特別扱いなどしません。ウチの大切な組員と等しく扱います。それがティアさんの望みですから」

 落ち着いた声の先生にそう告げられた組合長は、諦めたように笑った。

「そうか……、そうなんだね。手続きに問題が無い上に、私はリンパッティア様の気性を知っている。冒険者として迎え入れることに異は唱えることはできないよ」

 うん。ここまでだな。

「誰でも構わない。手の空いている【識術師】を呼んできてもらえるかな」

「はい」

 ベルハンザ組合長の声を受け、ハラハラとした顔でコトの成り行きを見守っていたミーハさんが立ち上がり、速足で部屋を出ていく。

 ため息を吐くマクターナさんの肩をグラハス副組合長が軽くたたいている近くでは、バスタ顧問が百面相だ。
 ティアさんが冒険者になることの影響を、メリットとリスクの両方から計算しているんだろうなあ。もちろん自分の功績のために。


 ◇◇◇


「お姫さんは十二階位の【強拳士】で、そっちのお嬢ちゃんは同じく十二階位の【堅騎士】だ。間違いないよ」

 お久しぶりとなる組合所属の【識術師】、キッパおばあちゃんがティアさんとメーラさんに【神授認識】を掛け、相変わらずのキツい口調で結果を告げた。

『へえ、そうなのかい。頑張りな』

 ティアさんたちが冒険者になるから【神授認識】を頼むと組合長に言われたキッパおばあちゃんのセリフがこれだ。
 もしかしたらこの部屋にいる人間で、一番の度胸持ちかもしれない。

【神授認識】も行われ、書類に不備はない。もちろん初期費用についても必要以上なくらい大雑把に支払われている。あれってお釣りはどうなるんだろう。

 そして残されるのは──。


「では……、ペルマ迷宮冒険者組合所属『一年一組』は、リンパッティア・ペルメッダさんとメーラハラ・レルハリアさんが冒険者として活動できると判断し、組合に推薦します。また、彼女たちお二人が『一年一組』に所属することも併せて申請します」

「ペルマ迷宮冒険者組合一等書記官、マクターナ・テルトが確認いたしました」

 厳かな空気をまとった先生とマクターナさんの声が部屋に響く。
 俺たちが冒険者となった時と似たようなやり取りだが、もちろん文言はちょっと異なっている。

『シュウカク作戦』関連の資料を片付け、冒険者登録に必要な書類だけが置かれたテーブルには、こちら側からは当事者のティアさん、メーラさん、組長として先生、副長の|藍城《あいしろ》委員長と|中宮《なかみや》さんが席に着き、向かい側にはベルハンザ組合長、グラハス副組合長、『一年一組』専属担当のマクターナさん、記録係のミーハさんが座る。

 作戦会議中だったため、バスタ顧問を含めて組合側の見物客もたくさんだ。一年一組からは迷宮委員として俺と|綿原《わたはら》さん。純粋に野次馬なのがチャラ子な|疋《ひき》さん、暴れん坊エルフのミア、好奇心旺盛な|酒季《さかき》|姉弟《きょうだい》、オタな|古韮《ふるにら》と|野来《のき》、|白石《しらいし》さん、そしてティアさんとメーラさんたってのご要望で御使いの|奉谷《ほうたに》さんがいる。
 ホント気に入られているよな。出会った頃ならチャラ男の|藤永《ふじなが》とか筋肉の|馬那《まな》だったのに。

 クラスの攻撃力上位陣が全員この場に来てしまっているが、拠点には盾役もヒーラーも残してあるので大丈夫だろう。なによりメガネ忍者な|草間《くさま》もあっちだし。


「新たな冒険者が我がペルマ迷宮冒険者組合に参加してくれたことを喜ばしく思う。活躍を期待しているよ」

 すっかり諦めた……、もとい納得してくれたベルハンザ組合長の口調は、開き直ったのかのように軽快だ。

「おめでとうございます!」

 そして笑顔のバスタ顧問が拍手と共にすかさず祝福を口にする。
 こういうところがこの人らしい。大人というか、社会人って感じで。太鼓持ちってヤツだっけ。

 それでも顧問の声に釣られたかのように部屋中が拍手に包まれたのだから、バスタ顧問のやり口は上手いよな。

「めでたいねぇ~」

「新しい仲間だねっ!」

「一緒に頑張ろうね」

「悪役令嬢がパーティに加わったってパターンか」

「アリじゃない?」

「アリだよ」

 もちろん一年一組の面々も拍手と共にお祝いの言葉だ。一部そうでもないのも混じっているが、それはさておき。

「わたくし、やってやりますわよ!」

 優雅に立ち上がったティアさんが拍手に応えるように吠え、横ではメーラさんが小さく頭を下げている。
 おかしいなあ、俺たちが冒険者になった時ってこんなだったか?

 ともあれ、こうして二人の冒険者が誕生し、俺たちの仲間となった。
『一年一組』は二十四人の組として、これから活動していくことになる。


「出席番号が必要ね」

 盛り上がっている場を生暖かく見守っていたら、綿原さんから微妙な話題が飛んできた。

「つぎって何番だっけ」

「女王様が二十八だから、二十九と三十よ。けど──」

「ティアさん、女王様よりうしろって怒らないかな」

「|凛《りん》と|鳴子《めいこ》に任せましょう」

 騒ぎが目に浮かぶな。この件については綿原さんの言うように、中宮さんと奉谷さんに一任だ。

 どれだけティアさんがゴネようと、二十二から二十八は埋まっている。それが覆されることはない。
 そして、ティアさんとメーラさんに出席番号を与えないという選択も無しだ。それが一年一組のやり方だから。


「今後はこれまでとは別の形になりますけれど、よろしくお願いいたしますわ。わたくしの専属担当、マクターナ・テルト」

「ええ、こちらこそ。わたしのことはマクターナだけで構いません」

「ではマクターナ『さん』、と」

 俺と綿原さんが怒れるティアさんの姿を想像しているあいだにも、状況は進んでいた。
 ひとしきり周囲からの賞賛を受け取ったティアさんが、『一年一組』専属担当のマクターナさんに改めて挨拶したのだ。ティアさんが敢えて『さん』付けなんて、逆に怖い。

 マクターナさんのことを『微笑み守銭奴』呼ばわりしていたティアさんからの言葉を、笑顔で受け止める『ペルマ七剣』の図か。龍虎とまでは言わなくても、そこに何かしらの火花が散ったのを俺は幻視した。
 ティアさんを仲間にして周囲と付き合っていくって、こういうことなのだ。

「前途は洋々としていて多難ね。サメだらけの海みたい」

「それって綿原さん好みってことじゃないか」

「そうかもしれないわね」

 ツッコミを入れる俺に、綿原さんはモチャっと笑顔で答えてくれた。


 ◇◇◇


「|八津《やづ》、綿原さん。一緒に来てもらえるかな」

 クラスメイトやら組合の職員さんと挨拶しまくっているティアさんを眺めていたら、先生を引き連れた委員長が声を掛けてきた。
 だよな。ティアさんが場をかっさらっているけれど、本命はもうひとつの案件だ。俺たちは四人で連れ立ってその人の下に向かう。


「グラハスさん」

「なんだ?」

 委員長が話し掛けたのは騒ぎをそっちのけに、たくさんの資料に目を通しているグラハス副組合長だ。こんな騒ぎを起こしてしまって、なんか申し訳ない。

「『シュウカク作戦』の件ですけど、『一年一組』は二十四名で参加します」

「ついでみたいに言ってくれるなよ。だが、本当に『二十四』でいいんだな?」

「はい」

 手短にした方がいいと判断した委員長が端的に『一年一組』の参加を伝えれば、副組合長は肩を竦めて頷いてくれた。

 ティアさんとメーラさんだけ拠点でお留守番なんてコトにはしない。
 クラスの一員となったからには、二十四人で迷宮に挑む。それが『シュウカク作戦』なんていう大規模な行事でもあってもだ。トウモロコシの件があっても俺たちは四層に潜り続けるのだし、ぶっちゃけティアさんとメーラさんの冒険者デビューが派手な舞台というのは悪くない。

「明日の九刻から、大会議場で作戦の説明会だ。新種の解説もやるぞ。ヤヅ、壇上に立つか?」

「勘弁してください」

「まあいい。一つの隊からは四名までだ」

 即答する俺に副組合長は苦笑を浮かべ、書類を一枚手渡してきた。
 明日の説明会の案内か。開催時刻は夕方の六時で、場所はこの部屋の隣にある大会議場。以前臨時総会が行われたでっかい部屋だ。

「参加はこの四人かな。誰かが外れて白石さんか野来でもいいけど……、ティアさんもいるのか」

「このままのメンバーが筋よ。ティアが何かを言い出したら、説得は凛に任せましょう」

「酷いなあ」

 俺から紙を受け取った委員長が出席者を検討するも、綿原さんはバッサリだ。

 でもまあこれについては綿原さんの言う通りで、組長として先生、副長の委員長、そして迷宮委員の綿原さんと俺。四名までとなれば、このメンツが正論となる。
 委員長を外して書記の野来か白石さんという手もあるが、ヒーラーがいなくなるのはいただけない。俺と綿原さんがキッチリメモをすればいいだけだ。

 俺たちは拠点を離れて行動する時に、基本的にヒーラーと盾、斥候を外さない。今のケースでもこの場と拠点にそれぞれ回復役と盾役を配置してある。
 そういう点で両方ができる委員長は便利なユニットなのだ。さすがは勇者オブ勇者。迷宮でも存分に使ってやるから覚悟してくれ。サトウキビとかトウモロコシで。

「八津。悪い目付きになってるぞ?」

 ゴメン委員長、だからメガネを光らせるのをやめてくれ。


 ◇◇◇


「さて、わたくしはここで一度お別れですわね。みなさん、お仕事の邪魔をしたことをお詫びいたしますわ。明後日の作戦、わたくしも参加いたしますので、勘定に入れておいてくださいませ!」

 ひとしきりの騒ぎも終わり、ここで一旦ティアさんとメーラさんとはお別れだ。ついでにアジっているけど、そこもまたティアさんだな。

 彼女たちは今夜だけは王城に泊まり、『一年一組』の拠点への引っ越しは明日の朝となる。
 何しろ今夜はアウローニヤ外交使節団との晩餐会だからな。主役の一人が欠けるわけにも……、って、冒険者になったティアさんがそういう場に出るって大丈夫なんだろうか。

 いや、それすら外交や商売のネタにするのが侯爵家の人たちだ。あの侯王様のことだから、婚約破棄のせいで自分の娘が、とか言い出しそうだし。
 そういう風に考えてしまうと、ティアさん本人の希望や俺たちとの繋がり、さらにはアウローニヤへの牽制まで含めて、全部が侯国の策略に思えてくるから恐ろしい。それくらいやりそうだもんなあ。

 ああ、なるほど。さっき聖女な|上杉《うえすぎ》さんが政治とかって聞いていたのはこういうことか。
 勢いでここまで来てしまったが、拠点に戻ったら真意とか推測とかを教えてくれるだろう。


「早速報告に参りますわよ。メーラ!」

「はっ」

 退室していくティアさんとメーラさんがなんか凄い速足だけど、また会談の場に突撃する気だろうか。するんだろうなあ。

 こうして『一年一組』のメンバーは二十四人となった。俺たちが異世界に飛ばされてから百一日目の出来事である。

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