『Evil Archer ―四天王の薬中に成り代わったので運命に弓を引く―』の主人公の中の人の性別に言及する内容です。
このまま、主人公を性別のないものとしてお楽しみいただきたい方は引き返してください。
1人が座って作業の出来る最小限の大きさの木製の机と椅子が部屋に等間隔に並べられ、それらの椅子が向かう方向には深く濃く暗い色の緑色の大きな板。白墨で書かれた文字には見覚えがなく、しかし読めるのはどうしてだろう?
いつのまにか最も後ろの、最も窓際の席に座っていた自分はやや呆けた状態で窓の外を眺めた。夕焼けにしたって赤過ぎるような空に、自分の街とは異なる建物群。
そう、まるで昨日もプレイしていた『帝都怪異奇譚』の舞台のような──。
「!?」
そうだ、目の前にあるあの板は黒板というもので、書かれている文字は日本語だ。それでこの机と椅子の並べ方からして場所は『帝都怪異奇譚』の舞台である、国という異世界の市街地の大きな纏まりの1つ、日本という場所にある学校だ。
慌てて自分のものと思しき鞄の中身を確認するとアイシャドウ、マスカラ、ビューラーなどの化粧品や道具が入ったポーチと財布、スマートフォンが入っていた。逆にいえばそれだけか入っていない。勉強道具はどうしたんだろう?
とにかく、化粧道具があるなら鏡がある筈、と取り出して自分の顔を見れば、気合の入ったアイメイクを大きな瞳の上に乗せた、キツい印象の女子生徒が写り込んだ。
「セイ・クシキノ……」
日本語の表記に合わせるなら串木野 セイ、『帝都怪異奇譚』の登場人物。
孤高で、自由で、場合によっては主人公にすら懐かない、最終決戦で命を落として作中の敵、怨霊になり果てる、一応は主人公の仲間。ゲームの時間軸では高等学校という教育機関を卒業していたから、多分、それより前なんだろうけれど。
「なんで、自分が……」
自分はサリフィドラ在住の平々凡々な一市民だったのに。
というか何故に、串木野 セイなんだ。共感が出来る要素が少な過ぎて本当に何でこのキャラクターとして此処にいるのかが分からない。そして何より、
──女性の、身体、とか……!!
迂闊に自分の身体すら触れなくなった。否、男性でもなかったし、串木野 セイとしての17年分の記憶もあるのだけれど、それはそれとして別の人の身体に入っているという事実が混乱を加速させる。今後の生活をどうすれば良いというのだろう。
頭を抱えていると教室の外、出入り口の引き戸に開けられたガラス窓からこっそりと自分を窺っている人物に気付く。
「らん……」
皆川 鸞、『帝都怪異奇譚』の主人公で浄化の能力者。戦闘能力を持たない代わりに状況判断や後方支援を一手に引き受けていた指揮官タイプ。串木野 セイの後輩で今年3年生のセイに対して鸞は1年生、在学中は今年しか接点がない上にセイが独りを好むので接触はなかった筈。なのに、どういうわけか明らかに自分を気にしている。
「……」
意を決して出入口へ、鸞へ近づく。向こうも自分がそんな行動を起こすとは思わなかったのか驚いた表情で固まってしまい、出入り口から離れずにいる。
「自分に、何かご用?」
固まっていた鸞の目が見開かれる。
「セイさん、じゃない……!?」
「──あ」
しまった、セイの一人称は女性なのに「オレ」だった……。