妖怪は黄昏時、夕方枠で。
幽霊は丑三つ時、深夜枠。実は勤務時間違うんですよね。
そしてこれは、薄明の頃、つまりは早朝のお話。
散歩をする時のスタイルは決まっていて、アロハである事は今は然程重要でなくて大抵白い有線のイヤフォンをつけていて片手にはスマートフォンを持って歩いています。そういうポーズで歩いています。曲は流しているけど鳥の声が聞こえる程度の音量。
朝でも結構散歩をする人というのは多くて、それなりにすれ違います。すると、距離が縮まってくるとお互いに落ち着きを失くしていくのです。挨拶をすべきか、会釈で済ますか。今か、いやまだ早いか。遠方の頃は視界には入れつつも互いを意識してない体を保っているのに、徐々にチラ見する機会は増えていきます。顔色を伺っている訳ではないのになぜか駆け引きが存在するのです。
そんな時イヤフォンにスマホは便利で、スマホに目を落としていれば気づいてませんよアピールはたやすくて、耳にイヤフォンをしているので互いに会釈で済ませても良いような空気を出しやすい。
それはさておき、散歩をする道というのも大体決まっていて、今朝は2番目によく通ってる道でした。交通量の多い道を脇に逸れると幅約6m長さ30m程のトンネルがあり、そこを抜けると馬の牧場やら田んぼばかりなので好んで歩いてます。今の時期はおたまじゃくしが多く、それを狙って小柄で顔の黄色い若いサギがたくさんいて楽しいです。
さて、しかし田んぼに至るためにはトンネルを通る必要があります。今朝も差し掛かると向かいから人が歩いてきます。夏至の直後で日の出が早いとはいえ朝5時台はまだ薄暗い。特に今回、逆光の位置関係にあるため相手は良く見えませんでした。
分かる事はバケットハットを被っている事、シルエットからワンピースらしい事、ぐらいでしょうか。他は影になって見えません。
私は足を止めずにスマホに視線を落とします。映っているのは再生中のプレイリスト。
トンネルに入りました。スマホに目を落としながら私は考えます。
例えばマンガなどの創作物であれば、ココまで来て相手が見えなければ妖怪であったりするんじゃなかろうか。分かりやすいトコロですと「口裂け女」とかでしょうか。そこまででないにせよ顔に大きな怪我をした大人の方と暗い道に二人きりは、小学生ぐらいであればさぞ恐かったかも知れないなぁーと想像してみます。
少し顔を上げてみます。距離が縮まり先ほどより鮮明に相手が見えました。ノースリーブの藍色のワンピースです。その白い二の腕の感じや緩慢な歩き方からあまり若い印象は受けませんでした。しかしまだ顔は影になって見えませんでした。
再び視線をスマホに戻します。
道で二人きり、しかも今はトンネル内です。ここで襲われたらどう対処すればよいでしょう?
これがクマやヴェロキラプトル(恐竜)など分かりやすい脅威であればトンネルに入る前に逃げてた事でしょう。また、私が女性で相手が男性だったならば早足で迂回してたところです。
ただ相手は見た目女性です。本当は滅法な怪力をお持ちだったり目から怪光線を飛ばしたり、怪電波を受信してたりしてても傍からは分かりません。それは相手にとっても同じで、互いにイヤだな怖いな逃げたいなと思っていても特に理由がない限り普段通りに振舞う事を強いられます。誰に強要される訳ではないのですが。そして創作物ではそれが原因で大抵手遅れになってしまいがちですが。
いよいよ近づいてきました。あと10歩ほどでしょうか。目だけ動かすと視界の隅に相手を捉えます。ただ、未だに相手の顔は影になって視認できません。
……いや、さすがにおかしい。服のガラまで分かるのに相手の顔が分からない筈がないのです。私は意を決して顔を上げると真正面から相手を見ました。
……ああ、なるほど。合点です。
なに、簡単な事でした。真っ黒な布で顔を全部覆っていたのです。そうですね、歌舞伎の黒子みたいな。やや布は破れたりしてましたが。影だと思っていたのは布でした。それだけの話でした。
そうして彼女とトンネルの中ほどですれ違い、そしてトンネルを抜けました。
早朝とはいえ、夏の紫外線は強いですからね。美容に気をつけてる方は外出、大変そうです。思い返せばすれ違うその時まで結局一度も私の方を見向きもしませんでした。相手の顔色を伺わず、自分のやりたい事を無心で実行するタフな精神が羨ましい。私だったら奇異な目を向けられるのではと実行に移せなかったに違いないのです。
……あれ、でも日焼け気にしてるんだったらノースリーブおかしいような?
まあ、いいや。そんな訳で朝、不思議なお話かと思いきや謎が解消してスッキリしたという話でした。
今日はプリキュアのキュアウィンクの誕生日ですよー。