先日、隣人にこう言われたんです。 『カレーを作らなさすぎたので貰ってくれませんか』 この時は特に何も違和感を覚えず、お腹も空いていたので、深く考えずカレーを貰ってしまいました。 それから、隣人は毎日のようにカレーを勧めてきました。 『食べ過ぎたので』『お腹が空いたので』『お金が無いので』という風に毎回理由は違っていて、種類もポークカレーやビーフカレー、キーマカレーにトロブカレーとバリエーション豊かだったのでなかなか気付きませんでしたが、こうも連続してカレーを振る舞われるのはおかしいと気付きました。 隣人に聞いてみると『偶然』の一点張り。 怖くなったので自衛隊を招集し特攻調査を始めました。 すると、私の家はエベレストの頂上に建っていて、そもそも隣人など存在しないということがわかったのです。 怖くなった私は警察に通報し、布団を被って丸くなりました。 しばらくして、インターホンが鳴りました。どうやら警察らしいです。ほっと安心した私ですが、『いや、中国とネパールの間にあるエベレストに日本の警察が来るのはおかしい』と気付きます。 何とか裏口から脱出しエセ警察から逃れた私ですが、何と私の家に裏口はないのです。私はいつの間にか空いていた壁の穴から外に出ていたのです。 その穴の外には、例の隣人が立っていました。 『つつつつttkrrriisかかかれkcureeeeeeeee』 引き攣った笑いで、無表情に、壊れた言葉を吐き出しています。 私は彼を殴り倒しその場から走って逃げました。何回か怖くなって後ろを振り返ろうとしましたが、その度に誰かが『振り返っちゃダメだ! 真っ直ぐ進め!』と叫ぶので何とか持ちこたえました。 しかし私にそんなことを言ってくれる人は存在しないのです。 アンドロメダ座まで逃げて、意を決して後ろを振り返りました。 そこには虚無がありました。 そう、何もないのです。恐ろしい隣人も、エセ警察も、招集した自衛隊も、何もかも存在しないのです。私は暗い宇宙の中一人ぼっちなのです。 私は怖くなって逃げ出しました。 どこへ逃げるのか、そんなのは頭にありませんでした。ただただ一心に闇の支配する宇宙の中を駆け抜けました。気が付けばそこは宇宙ですらありませんでした。宇宙なら幾千幾万もの星が瞬いているはずですが、私の視界にはそれすら映っていないのです。私は走りました。漆黒の中を走り続けました。何度かつまづいて転び、自分以外何も存在しないはずの世界で一体何につまづいたのかに恐怖し、それを原動力にしてまた走りました。 今、私はシンガポールに居ます。