「天空の糸」レビュー文で使用されている言葉についての解説
レビュー中で用いた「誰のものとも断言できない“想いの行き先”」という表現は、本作が意図的に読者へ委ねている余白を指しています。
(パターン解析の内容を一つの文言にまとめています)
『天空の糸』では、感情の主語や対象が明確に語られない場面が多く、読者は登場人物たちの視線や沈黙、残された物の扱いから、それぞれに異なる像を思い描くことになります。
山崎の想いは誰へ向けられていたのでしょうか。
湯口が縫い足した言葉は、誰への応答だったのでしょうか。
写真の女性は、実在の人物だったのか、それとも仮の像だったのか。
そうした問いに対して、作中でただ一つの正解が示されることはありません。むしろ本作は、断言できない状態そのものを保ったまま物語を閉じることで、複数の読みを同時に成立させているように感じられます。
「想いの行き先」を特定しないという選択は、読み手に解釈の自由を与えると同時に、戦時下という、語り得なかった感情の在り方を、静かに浮かび上がらせているのではないでしょうか。
【作者さまへの感謝】
本作を通して、ここまで多くの読みを行き来できたのは、
ひとえに、言葉を尽くしすぎず、語られない部分を大切に残してくださった
馬渕まり先生の筆致あってこそだと思っています。
読み手が立ち止まり、考え、迷いながら物語と向き合える余地があること。
その静かな自由を、作品の中に確かに感じました。
この解説は、正解を示すためのものではありません。
ただ、一人の読者として、この物語から受け取ったものを、
そっと言葉にしてみた記録です。
あらためて、心に残る作品を世に送り出してくださったことに、
深く感謝申し上げます。