百鬼の忍~戦後を終えた日の下で、役立たずの忍は忌者喰らいの姫と出会う~
https://kakuyomu.jp/works/16818792436672972594第二章 【憂国精鬼のラプソディ】 を、読んでいただいた皆様。誠にありがとうございました!
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せっかくなので、ここらで本作についてのちょっとした裏話でもできればと思います。
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◆百月一族
綾夏の生家です。戦前は江戸・東京に居を構える、地域の名士でもある任侠のような存在でした。
精鬼の出生は、生物的な出産ではなく「精霊《しょうりょう》」の集積によるものです。
発生時点ではエネルギー体のような物ですが、それを既に受肉済みの精鬼が一定の力を刻み、人型を成すまで見守ります。
やがて、人格を持って形作られた存在は、霊気の含有量に従い、子供~成人の肉体を形作ります。
先代百月当主はこれらの精鬼を保護し、食客として囲っていました。
流れ物で戸籍が無い彼らを集め、彼らに浄忍の追及が及ばぬよう、裏で手を回して融通していました。
そして、十分な研鑽を積んだ者は、非合法の反怨魔武装勢力「百鬼衆」を名乗り、浄忍の目を避けながらも「もうひとつの首都の守り人」となっていました。
ですが、「あの戦争」に際し、鉾田と鹿島という二人の若者は、当主の引いた道とは、別の道を選ぶこととなりました。
◆鹿嶋流
怨鬼は基本的に一代で術体系を構築しますが、精鬼は適性に合わせ沌法を魂に「刻んだ」後に、術理の継承が行われます。
血統による結びつきの無い彼らにとって、沌法の継承を行う師弟関係は、親子にも等しいものでした。
鹿嶋礼児は、百月当主の兄弟分にして盟友である、鹿嶋の精鬼の「鐸《おおすず》」を修めました。鉾田の「貫《つらぬき》」も同様です。
綾夏は、百月当主の「標《しるべ》」の適正を持つ非常に珍しい個体であり、その奧伝を継承しましたが、体術の継承までは完了していませんでした。
◆「奧伝」と「創伝」
沌法と遁法。これらには奥義とされる術がいくつか存在します。
その中でも、一族(継承者)にのみ受け継がれる秘中の秘が「奧伝」で、当代が独力で開発し、体系に組み込んだ奥義が「創伝」となります。
基本的には奧伝は習得者が必ず行きつく完成されたものである一方、未熟者の創伝は蛇足になったり、当代のみが使えるピーキーな技になりがちです。
このあたりのセンスについては、巫力の弱さゆえに敵を観察し、PDCAを回して戦うことに慣れた朱弘の臨機応変性が光る形となりました。
(さらに言うと、熱遁は火遁と比べ応用性が低いゆえに、明松の実家の術の洗練のレベルが、浄忍の中でもあまり高くなく、創伝を差し込む余地が多かったという背景もあります)
◆将校さん(鳴嶋功三)
この話は、彼が店員の少女の「体に触れた」ことを物語の起点にしていますが、その真偽はあえて「未定義」とさせて頂きます。
酔っていたために、かつてのカフェーの気分で本当にスケベ心から手を出した、典型的な迷惑老人だったのかもしれません。
あるいは少し手を触れただけで、彼の悪評を知るウェイトレスの少女が「ひっ」と声を上げてしまい、それに「失礼な!」と激昂したのかもしれません。
この経緯次第で、物語における読後感は大きく変わってしまうと思いますが、あえて「どちらともとれる」形にしました。
この物語において、軍属の人間を取り上げて「野蛮な連中だ」と「彼らも戦争の被害者だ」の、どちらで書いても、それは現実の理解にバイアスを与えてしまいます。
確かに言えることは、その発端が自業自得であれ、事故であれ、彼という個人が、平和を享受し生きるためには、過去の時代の栄光に拘泥し過ぎ、他人の尊厳に鈍感過ぎました。
彼が「戦争」を真の意味で終えたことを実感するには、「風化」ではなく「幕引き」しかなかった、というのがその顛末です。
そして、彼の人格や罪を鑑みた上で、そうであっても「死」は「正当な罰」と言えないというのもまた、この物語の顛末であります。
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ひとまずはここまで。
第三章からは少々ペースを落としつつ、それでも一日一話更新を目標にしたいと思います。
(終戦記念日までに、センシティブな二章を終わらせたかったというのが、投稿を急いだ理由でした)
引き続き、 第三章【東京アンダーモラトリアム】 を、ご期待ください!