※本編のオマケです。ひいおじいちゃんとひいおばあちゃんの馴れ初めを気が向いたらこちらにアップしていきます。
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教会へのカチコミ。
てっきりクソ親父が先頭切って乗り込むと思ってたんだが、『教会の処理は全てお前に任せることにしました。私も準備が終わり次第顔を出しますから、それまでに諸々終わらせておきなさい』ときやがった。
ここまできて楽しようとしやがる親父に腹が立ちはしたが、まあ、暴れるだけの簡単な仕事だ。
てめえの仕事だろふざけんなって殴り掛かりそうになるのをぐっと堪えた俺はグリエの奴を抱えて教会に向かい、八つ当たりも兼ねてバカみてえにデカい扉を蹴破る。
吹っ飛んだ扉に何人か巻き込まれたみてえだが、神の加護がありゃ無事だろ。
「な、何者だ!! ここが教会本部だと知っての狼藉か!!」
「知ってるに決まってんだろ。あと、何者だ! じゃねえのよ。これ見てみ? 次期長様の顔、まさか見忘れたか?」
ここまで大人しく荷物してたグリエを肩から下ろし、猫よろしく脇の下を支えて持ち上げながらぶらぶらと揺らしてやると、そのまま抵抗することなく落ち着いた声で言った。
「お久しぶりです皆さん。家出娘、ただいま戻りました」
しっかし軽過ぎるだろこいつ。
もうちっと食わせなきゃいけねえな。
グリエを床に下ろしながらそんなことを考えてると、教会の奴らが血相変えて武器を構えやがった。
「おやおや。神のシモベともあろう方々が野蛮ですねえ。さ、グリエ様。どうぞ爺やの後ろへ。もしくは、ジダ様の腕の中へ」
なんでだよ真面目にやれや。
「ドリッチ様の背中はとても広くて頼り甲斐があるのですが、やはりここは後者を選択してよろしいでしょうか」
お前もだよふざけんな。
「もちろんそうされるべきですとも。神が許さずともこの婆やが許して差し上げます。さ、思い切ってどうぞグリエ様。いいえ、若奥様?」
「きゃっ! レーダ様ったら、若奥様だなんて気が早いです! グリエ恥ずかしい!!」
ふう。
「緊張感とかねえのかてめえらは!」
何がきゃっ! だ。
散々オーレナングで若奥様若奥様呼ばれてた癖に初日から完全に受け入れてやがったろうがよ!
「見てみろ教会の奴らの顔。可哀想に、茶番見せられて処理が追いついてねえぞありゃ」
そんな俺の苦言にも、一切響いた様子を見せずグリエが微笑みを返してくる。
「処理が追いついていないというか、怯えているように見えますね。あの、大丈夫ですか? え、本当に私のことを忘れてしまったとか、そんなことはありませんよね? それならそれで好都合ではありますが」
ぜひ忘れてくださいな、と満面の笑みで手を振る人でなし。
そんな次期長候補のあまりの言い草で逆に我に帰ったらしい男の一人が、わなわなと震え出す。
「ドリッチ? レーダ? ……ジダだと? 貴様ら、まさかヘッセリンク伯爵家か!?」
お、流石にわかったみてえだな。
じゃあ、挨拶くらいしとくか。
「教会の諸君。俺はジダ・ヘッセリンク。てめえらが嫌いで嫌いで殺したいくらい憎くて仕方ない、あの『聖者』の息子やってるもんだ。どうぞ、よろしく見知っといてくれや」
巻き起こる大歓声、と言やあ聞こえはいいが、まあ悲鳴だわな。
そんなに怖いかねヘッセリンクが。
俺の代でそんな評価を薄めてやるっつうのもそれはそれで面白そうだが……無理か。
だって、今も俺の横で婆やが入っちまってるし。
「神の使いっ走り風情が、ジダ様の前でえらく頭が高いじゃないか。ああ、気に食わない。そんな不敬な頭は、このレーダがざっくり狩ってやらなきゃいけないねえ!?」
そう絶叫しながらレーダが抜いたのは、分厚い刃をもつ鉈。
「く、『首狩り』レーダだあ!!」
俺の側にいる鉈を振り回す婆さん。
これだけ情報が揃えばそりゃわかるわな。
音に聞こえた危険人物の登場に、俺の自己紹介を上回る悲鳴を上げながら逃げ惑う教会の奴ら。
そんな光景に、婆やが左右の唇を吊り上げる。
「そうだ、逃げな逃げな! そして、逃げ場なんかないことを理解して絶望するんだね! あたしのことを知ってるってことは、そこのジジイの二つ名も、当然頭に入ってるだろう?」
俺の側にいる、馬鹿でかい槌を担ぐ爺さん。
つまり?
「『始末屋』、ドリッチ……」
正解だよ。
さてどうするか。
レーダを動かすと血生臭くなりすぎるんだよなあ。
俺は構わねえが、こんなんでもちっと前までグリエの身内だった奴らだ。
あんまりなことは避けてやった方がいい。
と、なると。
「おう、ドリッチ。そこの柱なんだがよお」
建物のど真ん中に建ってる意味があるかないかわからねえ無駄に真っ白な柱を指差すと、皆まで言うなとばかりに頷くドリッチ。
「奇遇ですねジダ様。爺も、丁度あの白さが鼻につくと思っていたところでございます。ええ、ええ。お任せください。叩き折りましょう」
「貴様、正気か!?」
「イかれておりますが?」
だよなあ。
それ以外の答えなんかどこ探したって見つからねえってのに、教会側は驚いたみたいに目を見開いて固まってやがった。
「いや、そんな顔すんなって。ヘッセリンク伯爵家だっつってんだろ? 常識的に考えてみろよ。正気な訳、ある?」
言わせんなよ恥ずかしい。
ヘッセリンクと言えば、当主は狂人。家来衆はイカれてる。
それが、未来永劫変わることのねえレプミアの常識だ。
「っつうわけで。やれ、ドリッチ。折角だ。俺も手え貸すから、親父が来るまでに解体しちまうぞ」