以前、もう没案は載せないと書きましたが、今回が一番分かりやすく話が分岐しているので、違いが一目瞭然で分ると思って公開してみることにしました。
ココまで書いても書きなおしたくなっちゃう、物書きの業ってやつが少しは解ってもらえるでしょうか(笑)
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カルロがブロランスの街に帰って来たのは、クリンが露店を開いて木工製品や鐵具を売りさばいている、正にその時の事であった。
何故、そんなに都合よくこのタイミングで少年の耳に入ったかと言えば。
「あっ! 居たっ!! 六歳か七歳位の見た目で『目ん玉くりぬかれる目抜き通り』で露店開いている子供っ!!」
と言う声が、客に商品を渡して代金を受け取ろうとしたクリンの耳に飛び込んできたからである。
より正確には、一瞬誰の事か解らず、さりとてこの辺りで露店を開いている子供は自分を含めて数人しかいない為『もしかしたら自分の事か?』とクリンが声がした方に視線を向けると、こちらを指差しながら駆け寄って来る数名の子供(それでも彼よりも大人びて見える)が、その直後に、
「やっぱり、あの時の煤集めの依頼した子だっ! 君がクリン君だよね!? カルロが帰って来たんだっ! 悪いけど直ぐに来てくれないか!?」
と口にした為である。
その言葉で、彼らが最初に依頼した時に炭集めした子供達だと分かったが、何でカルロが帰って来ただけで自分が出向かないといけないのかと思い、取り合ずその言葉に反応する前に目の前の商品を買ってくれた客にお釣りと商品を渡し、
「お買い上げ有り難うございました。またのご利用をお待ちしています」
と、頭を下げて客を見送る。
「ちょ、ちょっと、何落ち着いて接客してるんだよっ!? カルロが帰って来ているんだってば!?」
「それは確かに聞きました。ですが、それで、何で僕が商売を取りやめてまでカルロさんに会いに行かなけばいけないんです? 言っては悪いですが、僕とあの人は依頼人と雇われ、それか販売員と顧客の関係です。お仕事から帰って来たからと僕が一々……」
「そ、それは解っているよ! でも、シズラやカルロから聞いた所によると、君は薬師でもあるんだろう!? 下マジのゼイ女様ってえらい薬師の弟子って聞いているぞ!?」
「……誰!? え、もしかしてドーラばぁちゃんの事!? 何だよゼイジョって……ま、確かに勉強は教わりましたが、別に弟子では無い……」
「でも、薬師ってやつなんだろ、お前も!? なぁ一緒に来てくれよ、カルロが大変なんだよ、助けてくれよ!?」
言動が不自然で今一意味が解らなかったが、何やら切羽つまっている事だけは何となく察したクリンは、眉を顰めながら首を傾げる。
「……助ける? 誰が……誰を……です?」
「お前だよっ! お前が、カルロを助けてくれよっ! アイツ、帰ってきたら血まみれでさ、大怪我でさ、なんか死にそうなんだよっ! 今北門近くの宿屋に運び込まれていて、意識が戻らないんだよっ!」
その言葉がクリンの耳に届いた瞬間――
「それは『帰って来た』んじゃなくて『担ぎ込まれた』って言うんだろうが!! テメェら揃いも揃って馬鹿じゃねえのか!?」
もしかしたらこの世界に転生して初めて。クリンはクラフト以外の事で瞬間湯沸かしモードに入ったのかもしれない。
シズラやカルロと同じく孤児院育ちらしき子供達に「テメエらはちったぁ言葉の勉強しやがれ!」と怒鳴りつつも、隣の野菜売りのオヤジの露店に視線を向ける。
「オヤジさん!!」
「ああ、話は聞こえた。ボウズの店は俺が見ておくから早く行ってやりな」
「有難う御座います!」
クリンはそれだけ言うと、屋台の隅から薬草類を纏めて入れて置いたリュックを取り出し、子供に先導させて市場通りを飛び出して行った。
子供達に連れれられ案内されたのは、ダンジョンに続く北門近くの小さめの宿屋だった。
「何でギルドじゃないんです!?」
子供達に急かされて駆けつけたクリンが聞くと、
「カルロの前に何人か運び込まれていて場所が無いんだって! だからアイツが最近常宿にしている宿に運んだんだ!!」
と、子供の一人が答える。話によると、この子供達はダンジョンには入れないがダンジョン街道での採取は許可されているらしく、街道沿いの林で素材収拾をしていた所、街道を血まみれで逃げて来たカルロを見つけたそうだ。
「だからココに担ぎ込んだって事ですか……チッ、判断ミスりましたね……冒険者ギルドなら薬が足りなくても何か補充できるつもりでした……」
己の判断ミスにギリッと唇をかみしめ、クリンは子供達に、
「誰か、南門近くのドーラばぁちゃんの手習い所を知りませんか!?」
「ドーラって……下町の聖女って人の所? それなら場所だけなら知っている!」
「では申し訳ありませんが、行って、急いで手習い所に常備している薬を持って来て下さい。あ、あとばぁちゃも一緒に連れて来てください! 薬師としての腕も経験も、断然あの人の方が上です!」
「わ、解った!」
クリンの言葉に、子供の一人が弾かれた様に走り出したのを見送り、クリンは宿屋の中に入って行く。
「突然失礼します! 此方に僕の知り合いの駆け出し冒険者が担ぎ込まれたと……」
中に入る成りクリンが言うが、その目には入口前の受付と飲食スペースが一体になった広間があり、そこに。
「カルロさん!!」
宿屋の人間と思われる人物達に介抱されている駆け出し冒険者の姿を見止めた。慌ててクリンが横たえられているカルロの元に駆け寄る。
「あ、あれ? 貴方、この子……!?」
「く、クリン!? クリンよな!? 何でお前が……」
宿屋の経営者らしき人物達がそう声を掛けて来るが、少年はそれに取り合っている余裕はないとばかりにカルロの顔を覗き込む。
「ん……よ、よぉクリン……うぐぐぐぐっ……ひ、久しぶりじゃ……ねえか、なんだ珍しく……焦った顔しやがっ……て」
飲食スペースの机は片付けられ、その床に寝かせられていたカルロがクリンに気が付き、弱弱しく、だが何時もの様に生意気そうな口調でどうにか言って来る。
「は……はははは……ちょ、ちょっとドジっちまったぜ……あ……あれだけ『様子見』に行く時は……気を付けろって言われて……居たのによ……ザマあないぜ……」
「喋らないでください。今から治療しますから、大人しく……」
「へ、へへへへへ……俺ぁもう助からない……だろうよ。だ、だから……悪いんだけどよ……俺の代わりに……バランのオッサンに……伝えてくれねぇか……?」
「だから喋るんじゃねえつってんだろうが! 薬は持ってきたからこの位の傷なんざ直ぐに治してやるんだよ、良いから静かにして居ろこの馬鹿野郎!」
瞬時に瞬間湯沸かし器モードに入ったのか、クリンは怒鳴る。だが、目の前の少年の、胸にある傷が肺の深い所まで届いているのを目にしてしまい――
『ああ、これは僕では無理だ』
と、一瞬にして悟ってしまう。テオドラが居たのなら――或いは、テオドラの手習い所にコッソリと運び込んでおいた自作ポーションがあれば――もしかしたら助ける事は出来るかもしれない。
だが今のカルロは、胸だけでなく左目と左手が肩から無くなっている上に、右足も鋭い刃物のような物で切り裂かれていて、例え生き残ったとしても切断せねば助かりそうにない程に、酷い状態であった。
テオドラが到着するまで持つか――到着したとしても、言った通りにポーションを仕込んだ方の薬箱を持って来るか――どちらにせよ今のカルロの状態ではそれまで持たない公算が非常に高かった。
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はい、こっちバージョンですと、もっと早くあの男と再会していたのですよ(笑)
後、テオドラが居ない事と、こっちバージョンだとキッチリ左手が無くなっているのに書きなおししたらウッカリと間違えている事がバレバレです(笑)