https://kakuyomu.jp/works/16818792438048725794/episodes/16818792440522903770――1187年、文治三年の夏。
青景の広場には、焚き火の光と星の川が揺れていた。
地頭・秀通(親父さん)は夜空を仰ぎ、静かに語る。
「今年は歳時記どおりに田を植え、綿や麻を育てている。みんな、ようやってくれておる」
里に実りと笑顔が戻りつつあった。
牛飼い衆が作る醍醐は婚礼の引き出物となり、子どもたちは蛍祭りに笑った。
――だが、まだ足りないものがある。
それは「衣」。
着替えのない里人たちのために、安介たちは麻を育て、糸を撚り、布を織る。
三姫が導く工房では、カタン、カタンと機の音が響く。
そして――新しい麻衣に袖を通す瞬間、
胸の奥に芽生えたのは、ひとつの恋心。
汗と風と、そしてきらめく恋の季節。
平家の落人の里に、希望の布が織り上がる――。