https://kakuyomu.jp/works/16818792438048725794/episodes/16818792440019534806文治三年(1187)二月――旧暦では春、太陽暦ではまだ風が冷たい頃。
屋形の囲炉裏端では、昨年の落人狩りで焼かれた台山の話で持ちきりだった。
だがその「焼け跡」は、いつのまにか豊かな恵みの山へと変わっていた。
茅は屋根を葺くに足り、草は牛馬の餌となり、葛も山菜もとり放題。
青景の里は、黒い灰から再び命を得たのだ。
親父さんの采配で、風のない日を選び、今年も「山焼き」が行われる。
九郎のほら貝が鳴り、トラさんの合図で火が走る。
昼前には山が黄金に燃え、黒いすすが春の空を舞った。
十日もたたぬうちに、焼け跡には新しい芽がのぞく。
安介、ハヤテ、ノリ、リクの四人は、笑いながらワラビとゼンマイを摘み取った。
干しゼンマイ、干しワラビ――それは冬の糧であり、青景の希望そのもの。
湯気の立つ屋形では、山菜の香りと笑い声が広がる。
「青景の祭りだよ!」
そう安介が声を上げたとき、
あちこちの家から湯気が上がり、山菜の香りが空を包んだ。
黒い山に芽吹く緑。
燃えた山が再び命を生む。
それが、青景の春の始まりだった――。