https://kakuyomu.jp/works/16818792438048725794/episodes/16818792440008458725文治三年・春――。
冷たい風がまだ頬を刺す。
青景の里では「初物は寿命を延ばす」と笑い合いながら、
人々が竹林へと駆け出していた。
安介たちも鍬を手に山へ向かう。
土を掘るたび、黄金色のタケノコが顔を出す。
その姿は、まるで春の息吹が地の底から手を伸ばすようだった。
ノリは興奮し、ハヤテは慎重に鍬を入れ、
リクは小さなかごを握りしめて跳びはねる。
掘りたての初物を湯がき、皮を剥き、糠の香ばしさが屋形に満ちる。
やがて、穂先はほろりと柔らかく、根元はこりこりと歯ごたえが立ち、
春の香りが口いっぱいに広がった。
――「これで寿命が延びたね」
そう笑い合いながら、彼らはタケノコを籠に詰め、
じいさまへ、景清へ、たたら衆へとお裾分けに歩き出す。
命が芽吹く季節。
焼け跡の台山に緑が戻り、
人の絆もまた、静かに芽吹いていく――。