私が小説を書くうえで目指しているのは、「文章が消えて、対象が深く鮮やかに浮かび上がる」文体です。
読者が文章そのものを意識することなく、登場人物や情景、心の動きを、まるでその場にいるかのように感じられる文章を書きたいと考えています。
そのために、まず大切にしているのが、日本語としての構造的な明快さです。
係り受けや修飾関係を明確にし、不必要な重複や読点を避け、読者が文章を解読することなく、自然に物語を読み進められるよう心がけています。
ただし、読みやすいだけの文章を目指しているわけではありません。
人物の感情や情景を深く鮮やかに描き、読者が物語の世界に没入できることも大切にしています。
そのため、必要に応じて比喩や擬人法を用い、感情を直接説明するだけでなく、読者が感覚として受け取れるような表現を探しています。
一方で、表現そのものが目立ちすぎて、読者の意識を物語から逸らしてしまうことは避けたいと考えています。
目指しているのは、明快さと豊かな描写の両立です。
また、既成の言葉や表現に当てはめることで失われてしまう、一瞬の感覚も大切にしたいと思っています。
人が何かを見たり、感じたりしたときの、まだ言葉になっていない微妙な感覚。
そうしたものを丁寧に掬い上げ、できるだけ自然な日本語で表現したいと考えています。
そして何より、文章の向こう側に作者の存在が見えるのではなく、人物や世界そのものが浮かび上がることを理想としています。
まだ試行錯誤の途中ですが、『いってらっしゃい、アリエッタ』でも、こうした考え方を大切にしながら制作しています。
読者の皆さまに、アリエッタたちの世界を深く鮮やかに感じていただけたら嬉しいです。