夜の底──
ひとりの青年は
初めて自らの存在を
〝生きていてよいもの〟として
差し出される
名を与えられること
家族と呼ばれること
それは
野に棄てられた獣の胸へ
遅すぎる春を運ぶ静かな奇跡だった
だが──
安らぎの余韻を裂くように
古き桜の下ではひとつの儀式が始まる
護符は白く燃え
枝は蛇のごとく蠢き
人ならざる爪と荒れ狂う力が
深紅の眠りへと収束してゆく
涙を呑み
命を削り
なお届かせようとする祈り
その夜
闇を震わせた咆哮は
失われたものを呼び戻すための
あまりにも切実な産声となる
紅蓮の嚮後 〜桜の鎮魂歌〜
第25話 夜闇に響く咆哮
