「大丈夫なのか?」
「たぶん。ちょっと待ってて!」
そう言って樹は、目の前にある学生寮へと走って行く。
ここは、いま樹が1人で暮らしている寮だ。
マンションのような見た目ではあるが、入り口には管理人室があって、職員さんの姿もある。
どうやら関係者以外は、正面からは入れないらしい。
"部外者立ち入り禁止"の看板も堂々と建てられているし、そもそもここは"女子寮"であって……。
だからこそ、樹は寮の裏手へ周り、今非常階段をひょいひょと駆け上がっている。
やがて非常階段の踊り場で、樹は両腕で大きな丸を作って見せる。
俺はいけないことをしているということは重々承知してドキドキしながらも、それでも樹への想いが抑えきれず非常階段を登って行った。
俺が踊り場に達すると、樹は再度扉をほんの少しだけ開けて、中を覗き込む。
「おっけ、今なら!」
「な、なぁ、樹……」
「ん?」
「なんでこんなこんなことを、知ってるんだ……?」
「ご、誤解しないで! 僕だって、これするの初めてだから! 知ってるのは、えっと、同じ部の先輩が彼氏さんと良くこれやってて! だからっ!」
「声大きいって」
「ごめん……じゃあ、行くよ……!」
俺は樹に続いて、するりと非常扉を抜けた。
廊下はシンと静まり返っていて、人の気配をあまり感じない。
それでも油断をせずに、抜き足忍足で先へと進んでゆく。
「あの奥が僕の部屋」
曲がり角に差し掛かり、樹が小声でそう告げてきた。
結構距離がある。この場合はーー
「行こ!」
「おう!」
俺と樹は曲がり角は出ると、揃ってダッシュを始めた。
後少しで、樹の部屋の前。あそこさえ潜ってしまえば!!
っと、その時、ちょうど樹の部屋の前にある、別室の扉が開いた。
そしてそこからなぜか爽やかなイケメンさんが出てきて、そんな彼へすらっとした綺麗な女性が背中から抱きついている。
「「あっ……」」
そう声を上げたの樹とその女性。
すると女性の表情がみるみる真っ赤に染まってゆき。
「は、入りなさいっ!!」
俺と樹はその女性に無理やり部屋へ押し込まれた。
イケメンさんもやれやれと行った具合の表情でまた部屋に戻って、扉を閉める。
通された部屋は妙に熱っぽい空気が漂っていて、ベッドのシーツはぐしゃぐしゃに乱れていて、ゴミ箱にはこんもりとテッシュが入っていて……さっきまでこの女性とイケメンさんが何をしていたか、自然と察してしまう俺だった。
「木村ちゃん、帰ってくるのはやすぎっ! デートっていったら暗くなるまででしょ!?」
「ご、ごめんなさい……やっぱり、葵のこと部屋に呼びだくなっちゃって……」
「まぁ、気持ちはよーくわかるけどさ。で、この彼が例の、"王子の王子"?」
女性はそう言いつつ、ニヤニヤした笑みをこちらへ向けてくる。
「初めまして、王子の王子くん。私、西谷 恵那子! 水泳部所属で木村ちゃんの先輩よ!」
「ど、どうも。香月 葵です」
「そうそう、葵くんっ! たしか前は"おいくん"なんて呼ばれてたけど、付き合うようになって名前呼びに変えたのよね?」
どうやら西谷先輩と樹は、個人的なことを話すほど仲が良いみたいだ。
中1の最初の頃は、俺の影に隠れてばかりいた樹からはものすごい進歩である。
「そ、そうですね……あの、王子の王子って、一体……?」
「木村ちゃんは難攻不落の我が校のアイドルかつ、同性からも大人気な通称"王子"。そんな我が校の難攻不落の王子をメス堕ちさせちゃった君はーー」
「こら恵那子! メス堕ちとか下品なことを初対面の人に言うなって!」
とイケメンさんが、西澤先輩のワシワシとしだす。
「ごめんね、香月くん。俺は三年の東山 公彦……」
「私の自慢のかれぴ♩」
そういって西谷先輩は東山先輩へ抱きついた。
なんだかこういう西谷先輩のリアクションって、明るい時の花音……花守さんに似ていて少し複雑な気分となる。
でもこうした人と付き合っていたことで、おそらく樹は花守さんとも仲良く慣れたのだろうと思う。
「で、私の真似をしてかれぴを部屋に連れ込もうとしていた木村ちゃんは、この後一体何をしようとしているのかなぁ?」
「あ、あ、えっと……!」
「だから、恵那子っ!」
と、またしても東山先輩に突っ込まれる西谷先輩だった。
本当に明るい人だと思った。ひょっとすると、樹が大きく変われたのも、西谷先輩とのこうした交流があったからなのかもしれない。
「よし、ここでばったり出会ってしまったのも、いつものご縁ってことで! 支援するわ! ね?」
「もちろん!」
そう言うわけで、俺は樹の部屋への侵入に際し強力な助っ人を得ることができた。
この館内を自由に歩き回っても平気な樹と西谷先輩は先行して樹の部屋へ向かって行く。
少し片付けをしたいらしい?
「しかし、ここ最近の木村さんはまた以前みたいな明るさが戻って良かったって思っているよ」
ふと東山先輩がそんなことを言ってくる。
その言葉聞いて、胸がドキリと鳴った。
「じゃあ、樹はこれまで……」
「同じ立場の、しかも男だからこっそり教えるけど……ここ半年くらいさ、木村さん、浮かない感じが多かったんだよ。水泳の記録もあんまり良くなかったみたいだし……だけど、時々ものすごく元気で、良い調子の時もあってさ。木村さんが入学してから、ずっと面倒を見てきた恵那子もすごく心配しててさ……」
この半年間……その期間は、俺が樹と再会して、友達戻った期間と合致していた。
おそらくこの半年間、樹は笑顔の裏でずっと苦しみ続けていたのだ。
自分と俺と、花守さんとの関係の間でずっと……。
「恵那子のやつ、木村さんのことを妹みたいに可愛がっててさ。内定もらってる実業団を諦めて、木村さんのために地元に就職して、支えるだなんて言っててさ……でも、たぶん今日の木村さんを見て、安心してると思うんだ。もう自分がそばにいなくても大丈夫だって」
「……そうでしたか……」
「これからも木村さんのことをよろしく頼んだ、香月くん!」
東山先輩の言葉を受けて身の引き締まる思いとなる俺だった。
と、そんな中、西谷先輩が玄関の扉をちょこっと開いて、手招きをしてくる。
「今だよ、香月くんっ!」
「ほら、行っといで!」
「ありがとうございました! 俺、これからも頑張ります!」
東山先輩へお礼と決意を言い、西谷先輩の手引きで樹の部屋へと飛び込んでゆく。
扉を閉めると、樹を感じさせる匂いが充満していて、自ずと興奮が高まる。
そして居間に続く扉が開いてーー
「ど、どうしたんだ? その格好……?」
なぜか樹は私服から、ブレザーにリボン、そして長ズボンの今の学校の制服姿だった。
これまでずっとみたかったが、みられなかった樹の学校の制服姿に自ずと興奮が高まってゆく。
「上がって?」
促されるまま今へと向かう。
樹の部屋はシックな色合いで家具が統一されていた。でも随所には女の子っぽい可愛いものがあったと思えば、丁寧に作られたごついザンプラが飾ってあるなど、なんとも樹らしい部屋だと思えてならない。
「……抱きしめて?」
「ああ」
願いのまま、樹を背中から抱きしめる。
すると樹の手が、緩やかな手つきで興奮の象徴を煽り立ててくる。
ならばこちらもと、キスをしつつ、ブレザーに指を沈ませて、皺を刻み込んでゆく。
まるで一緒に下校し、そのままこうしたことをしているような感覚に陥いった。
樹もいつも以上に興奮しているのか、とても息が荒い。
「葵、すっごく興奮してるね? やっぱこれって制服効果かな?」
「まぁ、そうだな。でも、それは樹の方もじゃ?」
「ん……せっかくの機会だし……それにこんな学校生活が送れてたらなぁ、とか思ったり……本当は葵にも制服着て欲しかったけど……」
「じゃあ、次来る時は持ってくるよ。で、しよう。お互い制服姿でさ」
俺はそっと樹をベッドへ寝かせた。
そして官能的な太ももを覆い隠している長ズボンと下着を脱がせる。
ーーこの時初めて、樹は今日一日中準備万端だったのだと思い知った。
俺と映画を見ている時も、ザンプラを買った時も、ラーメンを食べている時でさえ、樹の体はいつでも俺を迎えられるよう準備をしていて、そのせいで下着を汚してしまったのだろう。
「うう……恥ずかしいからあんまり凝視するなよぉ……!」
「樹ってさ、結構エッチだよな?」
「エッチなのは認めるけど……葵にだけだよぉ……」
それほど俺は樹に思われていて、欲されていて。
ゴム一枚の隔たりがあろうとも、樹の中はいつも以上に柔らかくて、暖かくて、それでいて激しく俺のことも求めてくれていて。
ちょっとだけどニンニクの匂いが気になったけど、それはお互い様。
俺たちはギリギリの時間まで激しくお互いを求め合う。
樹がいなくなってしまうまで、ずっとこうした時間を過ごしてゆきたい。
そう強く思う。
