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★6/16 陰キャンプスピンオフNO3 『木村 樹ルート』

 週末、俺ははやる気持ちを必死に堪えつつ、だけどでできるだけ速度を出して、スーパーカブを走らせていた。
そうして待ち合わせ場所である県庁所在地の駅前にて、

「よっ! お待たせ!」

「おはよ! 葵!」

 駅前で合流した樹は、ジャージではなく、スカートを履いてくれていた。
しかもほんの少しメイクもしている。すっぴんでも十分に樹は可愛いのだが、今日の樹はその100倍増しに可愛いと思い、言葉を失ってしまう。

「ど、どうかなぁ……今日の僕、変じゃないかなぁ……?」

「いやその……めっちゃ……か、可愛い……!」

「あは! ありがと葵! すっごく嬉しい! てか、そういう気の利いたこと言えたんだねぇ?」

「うっせ、ばか! ほら、さっさと行くぞ!」

「ん♩」

 俺は樹と手を繋いでバスストップへと向かっていった。

 ここはこの県の中心のため、地元よりは行けるところが多い。
でも大都会に比べれば所詮は田舎で、行けるところなんて限られているわけで、デートができるところなんてそんなには多くなく、行けるところと言えば大型ショッピングモールが関の山だった。

 そしてここを訪れた1番の理由はシネマコンプレックス……つまり、映画の鑑賞である。

 さて、初めての女の子とのデートで、映画館。何を見ようかは、着いてから決めると考えていて……やっぱりここは、樹も女の子で、恋人だから、この漫画が原作っぽい恋愛作品がいいだろうか。
でも個人的には、昨日から封切りされたばかりの始動戦士ザンダムの最新作が気になっている。

「葵っ! これ観ようっ!!」

 と、樹が嬉々とした様子で指さしたのはザンダムの最新作。

「え!? い、良いのか?」

「僕、これ見たかったんだ! 葵もこれが良いんでしょ?」

「ま、まぁ、そうなんだけど……本当に良いのか?」

 もしかすると樹はいつもの癖で、自分の意思よりも俺の気持ちを考えてそう言ってるんじゃないかと思っていた。

「もちろん良いよ! 前にテレビでやってた火星の魔王以来の新作なんだし、興味ある!」

「火星の魔王って……観てたのか?」

「もちろんだよ! てかさ、僕をこんなのにしたの葵のせいだって覚えてない?」

 そういえば中1の頃、樹とやっていたスマホゲーでザンダムコラボが開催されていて、散々語りながらプレイしてたような……

「もしかして、あのゲームコラボ以来……?」

「ん! ってわけで早く早くっ!」

 樹はちょちょいと2人分のザンダム最新作のチケットを購入した。
そして俺を半ば引きずるようにして、劇場の中へ足を運んでゆく。

 未だに樹は俺の影響でザンダムへの興味を持ち続けてくれていた。
そんな事実は俺の胸を熱くし、より一層樹への想いを募らせていたので、正直映画の内容はあまり頭に入ってこなった。
だけど、樹はそんな俺を捨て置いて、本当に楽しそうに映画を鑑賞していて。
でも、最新作の新型ザンダムはかっこいいと思ったり。
それでその足でーー

「あ、あったぁ! 葵、あったよ! 最新作のザンプラ!!」

「おお! 一個だけあった!」

 すっかりザンダム最新がお気に召した樹は、テナントとして入っているホビーショップにて最新作の主役機のザンプラーーザンダムプラモデルーーを見つけて嬉々とした表情を浮かべている。
以前は、簡単に手に入ったザンプラなのだが、ここ最近は転売ヤーの台頭の影響で、こうして店頭に並ぶことが少ないのだ。

「てか、樹、ザンプラも作るんだな?」

「もちろん! そろそろエアコンプレッサーでも買おうか考えてるんだよね!」

 まさか樹はエアブラシでの塗装も!? 基本的にザンプラを買っても素組しかしない俺よりも、樹の方が遥にザンプラに対しては真摯に向き合っているようだ。だったら……と、たった一個しか在庫のなかった最新作のザンプラを手に取り、会計を済ませる。
そしてその包みを樹へ差し出す。

「やるよ」

「え!? い、良いの!?」

「俺よりも樹のほうが大事にしてくれると思うからさ。まぁ、こんなのがプレゼントで申し訳ないんだけど……」

「ううん、全然! むしろ変なアクセサリーとかよりも、こっちの方がずっと嬉しい!」

「そ、そっか」

「ありがと、葵っ! 大事に作るね!」

 変なアクセサリー……ね。樹にそういうものを贈るときは、しっかりと考えなきゃなと思う俺だった。

ーーそろそろお昼時で、お腹も空いてきたことで、フードコートを訪れた。

さて、何を食べようか? 樹は昔から肉食だから、肉系が良いだろうか?

でも……新しくテナントに入ったっぽい、野菜とかニンニクが無料で増せるラーメン屋が気になる。

だけど、デート中だし……ひょっとすると、この後、そういう展開にもなるかもしれないし、そこでニンニク臭いのはいかがなものか。

「ねぇ、葵! 僕、これ食べたい!」

 樹が指さしたのは、俺が食べたいと思っていたラーメン屋。
まぁ確かに樹もこの手のものが好きだとはわかっているんだけど……

「い、良いのか?」

「良いも何も、葵もこのラーメン食べたいんでしょ?」

「それはそうだけどさ……」

「お互いニンニク臭ければ、キスしたって問題ないと思うけど?」

 樹はにひひ、といった風の笑みを浮かべつつ、耳元でそう囁きかけてきた。

 まったく、樹には敵わないと思った。

「「ニンニクヤサイアブラマシマシカラメ、で!」」

 注文の時の呪文も、俺たちはほぼ一緒のタイミングだった。

 結局、俺と樹はお互いにニンニクマシマシのラーメンを食べてしまうのだった。

そして腹ごしらえを終えて、次の向かったテナントは、ここに来るもう一つの目的だったアウトドショップ。

 特に今は欲しいものはないのだが、このショッピングモールを訪れた際は、巡回するようにしている。
で、今日は、樹もここをぜひ訪れたいと言っていて、そのわけは……

「ど、どぉかな……?」

 試着室のカーテンが開いて、真新しいマウンテンパーカーを着た樹が姿を現す。

 これまでのキャンプの際は、いつも男の物の衣装ばかり着ていた樹。

 でもやっぱりこうして女の物の衣装を身につけていると、樹は本当に魅力的な女の子なんだと再認識する。

「良いじゃん、それ。似合ってるよ」

「ありがと! じゃあ、これ着て次のデートはキャンプだね!」

「そうだな。でも、ここ暫くは寒いらしいから、春になったらの方が……」

 そのとき、はたりと冷たい現実が胸へ去来する。

 樹との時間が楽しくて、幸せすぎてずっと忘れていた。

 いや、あえて忘れようとしていたのだ。

 今、目の前にいる樹は、あと2ヶ月もしないうちに、目の前から消えてしまう。

 日本とはほぼ反対の位置にある、アメリカへ行ってしまうことを……。

 そしてそれ以降は、易々とは会えない状況になってしまうことを……。

「帰ろ? 葵……」

 気がつくとマウンテンパーカーを売り場に返し、試着室からできて聞いた樹が、俺の手を握りつつ、そう言ってくる。

俺は樹の手を強く握り返し、ショッピングモールを後にし、バスへと乗り込む。

 その間も、俺はずっと樹の手を握りしめたまま、迫る現実に胸が引き裂かれそうな思いだった。

 こうして樹と楽しく過ごせるのはあと2ヶ月もない。

 しかも、こうして日本に居ても、そこそこの遠距離恋愛なのだ。

 だから、樹と過ごせる日は、指折りで数えるほどしかなく……

「ねぇ……うち、寄ってく……?」

 突然、隣の席の樹が、甘い声でそう囁きかけてきた。

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