「な、なに急に言ってるの……? だいたい、おいくんには花音ちゃんが……!」
「別れた」
「えっ!?」
「樹に告白したくて……樹に俺の想いを伝えるために、別れた……」
「なんで、急にそんな……どうして……?」
樹は抵抗することなく、か細い声でそう問いかけてくる。
「冬キャンプの時に気づいたんだ……俺はまだ、樹のことが好きなんだって……中2の頃から……いや、もっとずっと昔から……仲良くなったあの日からずっと俺は樹のことを……」
「……」
「都合が良いのはわかってる。今更だって重々承知している。だけど、まだ希望が残されているのなら、どうか俺のこの願いを聞き入れてほしい……」
俺は腕の力を緩めた。そして全く抵抗をしない樹へ正面を向かせた。
ただこうして樹を見つめているだけで、胸の内は抑えきれないほどの高鳴りを発している。
「付き合ってください……! 友達でも、マヴダチでもなく、彼女として、恋人として俺のそばに居てください」
「……っ!?」
俺はそのまま樹の唇を自分の唇で塞ぐ。
こういう大胆なことができるようになったのも、花音と付き合って、男としての度胸が付いたからだろう。
でも同時に、この行為は本当に自分本位で。樹の気持ちなんて微塵も考えてはいないことであって。
だからここで突き飛ばされても仕方がないと思い、多少は身構えている。
「……」
だけど、樹は俺を突き飛ばす素振りは一切見せず、ただそのまま唇を重ね続けていた。
やっぱり、樹はずっと俺のことを……だったら……
「んっ!? んんんんっ……!」
俺は樹の歯と歯の間へ、無理やり舌を捩じ込んだ。
すると、それまで固く閉ざされていた樹の顎がゆっくりと開いてゆく。
そして俺たちは、お互いの舌を深く絡ませ始めた。
お互いを激しく貪りあった。
俺も、そして樹も、お互いに涙を流し合いながら激しいキスを繰り返した。
やがて俺たちは激しいキスをしつつ、ベッドの上へ倒れ込んでゆく。
「はぁ……はぁ……おいくん……今だったら、まだ引き返せるよ……? 今、おいくんが、僕のことを諦めてくれるんだったら、ここまでしてきたことは水に流して、無かったことにするよ。僕たちは、これまで通り友達で、マヴダチで、君の恋人は花音ちゃーーーーんむぅ!?」
この後に及んでつまらないことを言い出す樹の唇を無理やり塞いだ。
そして分からせるように、樹の唇を、口の中を舌でめちゃめちゃにする。
「……自分が何をしようとしているだなんてわかっているよ。それでも決めたんだ。俺は樹が好きで、恋人になってもらいたくて……!」
黒い瞳を潤ませ、頬を赤く染めている樹へそう告げる。
「おいくん……」
「樹……!」
俺は唇以外の樹の身体へキスをし始めた。
「だめっ……! おい、くんっ……そんな……んんっ!」
最初こそ、樹はやや抵抗する姿勢を見せた。だけど次第に俺の行為を素直に受けるようになってきた。
やがて樹の方も、俺の敏感なところ触れ始めた。
そうして俺たちは、ようやく深いつながりを持つことができた。
樹の身体が揺れるたびに、艶やかな声が上がるたびに、興奮が高まって。
中2の頃に散々妄想をした淫らなの姿の樹が目の前にあり嬉しくなって。
自分の敏感なところが、樹の大切なところに収まっていることに感動を覚えて。
暖かくて、気持ちよくて、花音と初めてエッチをした時以上の多幸感が湧き上がって。
「おいくんっ……はぁっ……おいくんっ……!」
樹の初めての男になれたことが、嬉しくてたまらなかった。
……
……
……
「もう、おいくんってば……いきなりこんなことしだしちゃうんだもん……このすけべ……」
俺の腕の中にいる、裸の樹はいつもの調子でそう言ってきた。
でも、その言葉に毒はなくて。むしろ、いつも通りの樹で安心する。
「ごめん……」
「でも、ありがとね」
「ん?」
「だってさおいくん、野獣モードだったけど、ちゃんと避妊してくれたじゃん?」
「そ、そりゃ、するよ。なにかあっちゃ困るし……それに大事な樹の身体なんだから……その身一つで、樹は果敢に水泳に挑戦しているし、こういうことはしたいけど、樹の邪魔にはなりたくなくて……」
「……ありがとう、おいくん。そういう気持ちすっごく嬉しい……!」
そう言って微笑む樹の表情は本当に可愛いと思った。
そしてこうした表情をする樹をこれからも守って行きたいと思う。
「あのさ、樹。こんなことした後で、今更ななのはわかっているんだけど……お前の気持ち、聞かせてくれないか?」
「だよねぇ。おいくん、僕が応える前にキスしてきちゃったもんねー……」
「うぐ……すみません……で?」
改めてそう問いかける。すると樹は急に静かになって、俺の胸へちょこんとおでこを乗せていた。
「す、好きです……」
「ん? 聞こえないなぁ?」
「うぐっ……す、好きだよ、おいくんのこと……?」
「だからなんだよ、聞こえないって!」
「もう、だからっ! 僕おいくんのこと好きっ! 大大大大好きなんだからっ! これなら聞こえるでしょ?」
「聞こえたっつーか、叫びすぎ」
「ばか……」
今の"ばか"にも強い愛情が感じられた。そして俺は今満ち足りた気分となっている。
俺自身も、ずっと望んでいたんだ……樹とこういう関係になれる日をずっと……。
「おいくん……僕も覚悟決めたよ」
「覚悟?」
「ん……。おいくんが僕のことを選んでくれた……だったら、僕は僕の全存在を使って君のことを肯定するよ。その上で、全力で君のことを愛し続けてゆくよ。だから……もう、僕のことを離さないでね……?」
「わかってる。絶対に離すもんか。絶対に……! もう2度と樹のことを……!」
