三十年前、地方の小さなライブハウスで歌った一曲が、男の人生を決定づけた。
夢を信じ、自分の声だけを頼りに歌ったその夜――評価されたのは彼ではなく、周囲のミュージシャンだった。
時は流れ、男は家庭を持ち、夢から距離を置いた人生を送っている。
問題を起こした息子とのすれ違いに悩むある日、かつて音楽仲間だった知人から一本の連絡が入る。
プロ志望の若いボーカリストのサポートを頼まれたのだ。
再び立ったスタジオで、男は異様な既視感に襲われる。
その少年は、かつての自分と同じ名前を持ち、同じ街で育ち、同じ歌――
イーグルスの「デスペラード」を歌おうとしていた。
過去はやり直せない。
だが、過去と向き合うことはできるのかもしれない。
夢に傷ついた男が、もう一度音楽と向き合い、
「歌わなかった一曲」とともに、自分の人生の意味を問い直す物語。
新連載、「デスペラードを歌わないで」を、明日から登校いたします。
全四話の短編になる予定です。
年内の作品は、『お題を除いて』これが最後になり、
これ以降はいつものライナーノーツを連載いたします。
お楽しみに。
