「いひしらぬ絶望のなかに囚人のなげくがごとく、」
かかる句を或る詩集のうちに見出して、
私は作者に次のごとく告げたく思ふ。
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人間は誰でも絶望のなかに生き得るものではない。
他からは如何に望なく思はれる哀れな囚人でも、
その魂は飽くまで不思議に望を持ち続けてゐる。
こゝでの見聞と体験を通じて、
人間は絶望に耐へ得ない動物であることを君に証言する。
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十五年二十年の懲役を言ひ渡されて居る者は、
こゝの受刑者の大半を占めて居るが、
一人でも出獄の日に望をかけて居ない者はない。
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六十乃至七十を越した老人も、無期懲役の累犯者も、
こゝで死ぬると覚悟して居る者は一人もなく、
いづれも皆仮釈放にはかない望をつないでゐる。
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たまにさうした望を失ふ者がゐると、
あらゆる厳重な警戒にも拘らず――年に一人か二人は、――自分で自分をくびりて死ぬる。
ところで詩人よ、あなたはまた歌つてゐる。
「輝きにほふ世界と思つた此の世界は
暗い牢獄(ろうや)に過ぎなかつた」と。
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これは本当です。だが敢て私はさゝやく、
私はただに此のコンクリ―トの牢屋ばかりではなく、
人生の牢獄(ろうごく)を出る日をも待ち望んでゐる者だと。
川上肇「獄中秘曲(その二、希望)」