『袖の結び目』をきっかけに、同じ時代・同じ出来事を別の人々の視点から描く連作を書き進めています。
娘の視点から始まった物語は、やがて告発された女、記録を取る書記、残された母、そしてその場に居合わせた少年へ——
五つの視点がひとつの出来事を静かに取り囲む形になりました。
この作品の背景にある「魔女狩り」は、単なる残酷な史実ではなく、
恐れと信仰が社会の形を決めてしまう、人間の深層を映す文化現象でもあります。
誰もが「正しさ」の名のもとに沈黙し、
その沈黙が次の告発を生む——
そんな構造を、私は現代にも重ねて見ています。
『袖の結び目』という題は、母が縫った小さな糸の結びを象徴しています。
それは、断ち切られた関係を結び直そうとする祈りの形でもあり、
魔女狩りという狂気の中で、かすかに残された“人のぬくもり”の記録でもあります。
連作は今後も少しずつ整え、ひとつの短編集としてまとめる予定です。
どうぞ、時の埃に埋もれた小さな祈りの糸を、そっと手に取るように読んでいただけたら嬉しいです。
https://kakuyomu.jp/works/16818792438593151807/episodes/16818792438593232154