mifune5252様のつれづれネタ帳~誰か書いてください。自由に使えるファンタジー設定案〜から、ピグマリオン効果が物理法則になったら、推し活は魔法になるかもしれません、と言う設定を拝借して書いてみました。
中々面白そうな感じのものが出来そうな気がするw
推しが救う異世界召喚 〜ブラック企業勤の普段は地味な私が、推しのパワーで異世界救っちゃいます〜
理不尽な仕様変更。終わらないタスク。上司からの無茶振り。
ブラック企業での私の日常は、泥水をすするような最適化作業の連続だった。
そんな私の唯一の救いは、週末のコスプレイベント。限られたリソースの中、衣装の質感、照明の角度、ポージングの一つに至るまで緻密に計算し、「最強のキャラクター」を三次元に顕現させる。
それが、私の全てだった。
——はずなのだが。
「あんなヒョロガキが勇者なもんか」
「期待した俺たちがバカだったぜ。撤退だ、見捨てろ!」
兵士たちが吐き捨てるように去っていく。
取り残された荒野。迫り来る巨大な魔獣。
満身創痍の少年は、泥まみれで膝をつき、震える声で呟いた。
「くっ……ごめん、僕じゃ、やっぱり……!」
誰からも期待されず、見捨てられ、心から折れかけている勇者。
……ああ、痛いほどわかる。
私だって、ブラック企業で「お前には期待してない」と毎日理不尽に削られてきた。だからこそ、彼の絶望が手に取るようにわかってしまう。
それに、私の目は誤魔化せない。
彼の体幹のブレのなさ、剣を握る指先のタコ。地道な努力を重ねてきた「本物」だ。ただ、不器用で、誰にもそれを見せられなかっただけ。
こんな原石が、誰にも知られずに死ぬなんて許せない。
「立って!!」
気づけば、私は叫んでいた。
イベント会場で、最高のキャラクターを見つけた時に湧き上がる、あの純粋な熱量。ただのファンとしての、ひたむきな声援。
「あんたは強いよ! 私が、あんたの努力を知ってる! だから、負けないで……っ!」
たった一人。見ず知らずの女の、身勝手な叫び。
だがその瞬間——少年の身体を、淡い光が包み込んだ。
「え……?」
少年が目を見開く。
折れかけていた彼の剣に、わずかな、しかし確かな輝きが宿っていた。
魔獣が振り下ろした巨大な爪を、少年は弾き返す。先程までとは明らかに違う、不可視の力が彼の筋力を底上げしていた。
その一瞬の隙を突き、少年は渾身の一撃を魔獣の急所に叩き込んだ。
——ズシンッ、と重い音を立てて魔獣が崩れ落ちる。
静寂が戻った荒野で、私は自分の震える手を見つめた。
ただ応援しただけで、彼のステータスが跳ね上がった。私の『期待』という感情が、そのまま物理的なエネルギーに変換されたかのように。
(……ピグマリオン効果?)
教育心理学でいう、「他者から期待されると成績が向上する」というアレだ。
もし、この世界のシステムが、それを単なる心理作用ではなく『物理法則』として処理しているとしたら?
私ひとりの応援で、あそこまで出力が上がったのだ。
もしも彼に、千人の熱狂を、一万人の期待を背負わせることができたなら——?
私の中で、ブラック企業で培ったタスク管理能力と、レイヤーとしての『演出力』が、ひとつの狂った計画を弾き出していた。
「よし、まずはその地味すぎるビジュアルからどうにかしようか」
「えっ?」
魔獣を倒し、へたり込んでいた少年に――ルークと名乗った彼に、私は容赦なく宣告した。
彼の装備は、確かに機能的で手入れも行き届いている。だが、装飾の一切ないくすんだ鉄の胸当てに、刃こぼれを隠しきれない無骨な直剣。これでは「村人A」にしか見えない。
華がない。圧倒的に華がないのだ。
「いい? この世界では『強そうに見える』ことが何よりの武器なの。あんたは本物なんだから、あとはガワを盛るだけでいい」
私は先ほど倒した魔獣の残骸から、光沢のある甲殻や鮮やかな羽を剥ぎ取り、接着性の高い樹液と泥を使ってルークの装備に貼り付けていった。
造形レイヤーにとって、ライオンボード(EVAシート)とグルーガンがない環境は過酷だが、代用品なんていくらでも見つかる。
くすんだ鉄の剣には、魔獣の体液を塗って謎の『魔力的な照り返し』を演出。胸当てには羽を放射状に配置してシルエットを大きく見せる。
「うわぁ……なんか、すごく派手になりましたけど、これすぐ剥がれませんか?」
「耐久性はゼロよ。でも『今は』それでいいの。さあ、次はポージング!」
「ポ、ポージング……?」
困惑するルークの背中を叩き、私は無理やり彼に姿勢を取らせる。
「足を肩幅より少し広く開いて! 腰を落として重心を低く! 剣は身体の正面から斜め四十五度に突き出す! いわゆる勇者パースよ!」
「な、なんだかすごく恥ずかしいんですが……っ!」
「顎を引いて! 視線は真っ直ぐ遠くを見据える! そう、そこで三秒キープ!」
私の厳しい指導(ディレクション)の末、そこに立っていたのは、謎の煌びやかな防具を纏い、凄まじいケレン味のある構えで剣を構える『伝説の勇者(仮)』だった。
控えめに言って、最高だ。私の推しは顔の造作は良いのだから、見せ方さえ整えれば完璧に映える。
「……おお、なんという堂々たるお姿……!」
不意に、背後から声がした。
振り返ると、騒ぎを聞きつけて街から様子を見に来たらしい行商人のおじさんが、目を輝かせてルークを見つめていた。
「あの巨大な魔獣をたった一人で……? それに、その光り輝く剣と威圧感のある構え。もしかして、あなたが噂に聞く『真の勇者』様ですか!?」
「えっ? あ、いや、僕は……」
「そうです! 彼こそが真の勇者ルーク!」
ルークが言い淀む前に、私はすかさず前に出て高らかに宣言した。
行商人のおじさんの目に、明確な『憧憬』と『期待』が宿る。記念すべき、同担(ファン)第一号の誕生だ。
その瞬間だった。
――カァァァッ!
「うわっ!?」
ルークの持っていた鉄の剣(ハッタリ塗装済み)が、突如として眩い光を放ち始めた。
行商人の「伝説の剣に違いない」という期待が物理法則を書き換え、ただの鉄の剣に本物の光属性のエンチャントを付与してしまったのだ。
「すごい……剣が、光ってる……」
「(よしっ! やっぱり私の仮説は正しい!)」
私は心の中でガッツポーズを決めた。
物理バフの源泉は、群衆の熱狂。
なら、私がやるべきことは決まっている。この世界全土を巻き込んだ、史上最大規模の『推し活(プロデュース)』を始めることだ。
口コミの拡散力というものは、異世界でも凄まじいものがあった。
あのおじさん(行商人)が街のギルドや酒場で「とんでもねえ勇者様を見た!」と触れ回ってくれたおかげで、私たちが街の広場に到着した頃には、すでに妙な熱気が漂っていた。
だが、ただ待っているだけではトラフィックは最大化しない。
私はルークに、さらなる『ファンサ』の徹底を仕込んだ。
「いい、ルーク? 目が合ったら、まずは軽く微笑む。そして、ちょっとだけ憂いを帯びた表情で『みんなの無事が僕の願いだ』って呟いて」
「む、無理です! そんな恥ずかしい台詞、口が裂けても言えません!」
「ブラック企業の朝礼で、社訓を叫ばされるよりはマシでしょ! ほら、街の女の子たちがこっちを見てる。ファン対応(ファンサ)一つで、あんたの防御力が3割増しになるんだからね!」
ルークは顔を真っ赤にしながらも、私のディレクション通りに、ぎこちなく街の人々へ視線を送った。
その瞬間、広場のあちこちから「キャーッ!」という黄色い悲鳴が上がる。
地味だと思っていた少年が、少し着飾って、憂いを帯びたポーズを決めるだけで、ギャップ萌えが発生したのだ。
ルークの足元から、微かに光の粒子が立ち上る。よし、基礎バフの供給ラインは安定してきた。
しかし、人気が出れば必ず現れるのが、厄介な『アンチ』や『競合他社』である。
「ハッ! 何を騒いでいるかと思えば、ただの身の程知らずのヒョロガキではないか」
人混みを割って現れたのは、仕立ての良いローブを纏い、いかにも「私はエリートです」という顔をした金髪の魔法使いだった。
彼の背後には、いかつい大盾を持った前衛や、高そうな装備に身を包んだ仲間たちが控えている。
どうやら、この街でブイブイ言わせているAランク冒険者パーティのリーダーらしい。
「魔獣の一匹や二匹、運良く倒したからと調子に乗るなよ。そんな張りぼての装備で勇者を名乗るなど、滑稽極まりない。おい、お前ら、こんな無能に期待するだけ時間の無駄だぞ!」
金髪エリートが周囲の群衆に向かって声を張り上げる。
その冷ややかな言葉に、広場の熱気がすっと引いていくのが分かった。
マズい。人々の『期待』が疑念に変われば、ルークのバフが剥がれてしまう。現に、ルークの剣の輝きがみるみる弱まっていく。
「やっぱり、ただのハッタリなのか……?」
「期待して損したぜ」
囁かれる落胆の声。ルークはきゅっと唇を噛み締め、俯いてしまった。
——だが、私の脳内にあるプロデューサー細胞は、むしろこの状況に歓喜していた。
(キタキタキタキタ……! 最高のヒール(悪役)の登場じゃない!)
ブラック企業のクレーム対応で学んだこと。それは、「理不尽な攻撃を受けた時こそ、最大の同情票を集めるチャンス」だということだ。
最初から完璧無敵なヒーローなんて、今の時代ウケない。
読者、いや観客が最も熱狂するのは、**「実力はあるのに理不尽に虐げられている主人公が、逆境から這い上がる瞬間(判官贔屓)」**なのだ。
「ちょっと! そこまで言うなら、そっちの実力を見せてもらいましょうか!」
私はルークの前に一歩踏み出し、わざとらしく悲劇のヒロインのマネージャー風に叫んだ。
「うちのルークは、過酷な連戦で満身創痍なのよ! それなのに、そんな万全な状態のAランクパーティが、寄ってたかって一人の少年を虐めるなんて……! 皆さんも見てください! これが街を守るべきエリートのすることですか!?」
「な、何だと!?」
金髪エリートが目を見開く。
周囲の群衆から、「そうだそうだ!」「いくらなんでも言い過ぎだろ」「ルーク様はさっき魔獣を倒してくれたんだぞ!」という声が上がり始める。
潮目が変わった。
観客の感情が「ルークへの不信」から「エリートへの反発と、ルークへの同情」へと急速にシフトしていく。
「だったら、証明してやる! おい、そこのヒョロガキ! 今からギルドの模擬戦場で、どちらが真の実力者かハッキリさせようじゃないか!」
怒りで顔を真っ赤にしたエリートが、まんまと私の誘導(ステージング)に乗ってきた。
「(ルーク、聞こえる?)」
「は、はい……」
「最高の舞台が整ったわ。あいつを派手にぶっ飛ばして、この街のファンを全員、あんたの『ガチ恋勢』に変えてやりなさい!」