仕事上がり、ジムで一汗かきながら妄想を巡らせるのが私の日課です。
最初、私の頭にテーマとして浮かんでいたのは、北欧神話におけるフェンリルの殺し手ヴィーザル(デュメジルがヴィシュヌと同一説を説く神様)、そしてバルザックのセラフィタ(熾天使)でした。
ざっくりとしたプロットは
・主人公は商隊の護衛を担う、騎射に秀でた少年。
・塩の道の交易路、道中の商隊宿で雪崩の魔物(ヴリトラ)に襲われる。
・少年はガルーダに跨った神の意匠を施したお守りに祈るが、商隊宿は彼を除いて全滅。
(なお、お守りの意匠については、商隊宿で話し込んでいた北から来た僧侶と南から来た僧侶にその正体尋ねるも、その解釈を巡りお坊さんたちは殴り合いの喧嘩に突入)
・不思議と生き残った少年が意識を取り戻した時、魔物は真っ二つに引き裂かれ、無口な男性が立っていました。
・色々あって少年は男性の旅路に同行します。草原の交易路を通り西へ。男性は常に少年が聴き取れる言語で話しますが、一方で男性と話す人々は、必ずしも同じ言語では話していません。
・また、男性の姿は土地を巡るたびに変わっていきます。
・しかし少年が彼の正体を知る前に、男性は六枚の燃え盛る翼を持った「空から舞い降りた何か」に襲われます。
・少年が争いの巻き添えを食わないよう、男性は連れていた「腹に四つの大きな傷跡がある立派な馬」に、彼を遠くへ連れ去るよう命じます。
ここから始まりラグナロクを生き残った北欧神話の古い神々と新しい神の御使の対立。
また、新しい神を巡っても既存制度の腐敗を巡りエルモ(モデル:エラスムス)とマルティン(モデル:ルター)という名の神学生が対立。
(現実世界では文壇で殴り合った彼らですが、私の妄想では物理的に殴り合います)
それらのさまざまな対立をおさめていく馬と少年。
そんな構図を想定していたのですが、まずスタート地点が悪すぎました。
「ガルーダに乗った神様」の解釈で議論が巻き起こりそうな土地から北欧神話の語られる地へ行くにはまず、崑崙山脈を越えねばなりません。どうやって越えれば良いんだ?
崑崙山脈を越えると、更に別の神様のいる土地にたどり着くのですが……どちらも現在進行形で極めてデリケートな問題を抱えている土地であるため、暇つぶしにしても容易に踏み込めない領域です。
そもそも私は地理が大の苦手。ちょっと範囲が広過ぎる…。暇つぶしの妄想くらいもっとカジュアルに馬鹿馬鹿しく楽しみたいものです。
これらが大きなネックとなり、冴えない中年おじさんの妄想はあえなく頓挫。
代わりの妄想ネタを探していた頃、ヴィーザルのキャラクターを肉付けする為の資料を漁っている過程で読んだ、インド神話の無茶苦茶っぷりが私の心を引きつけました。
私自身、肌の色や髪の色がまあまあ特徴的な事や、かつてロシア、ウクライナの人々と親交があった事から、異なる立場に対する「理解」というのは人生の非常に重要なテーマといえます。無論限度はあるにせよ。
この無茶苦茶な逸話の数々(インド神話)を私の理解できる範囲に落とし込んでみよう。
そもそも妄想くらい、もっとカジュアルに(略)。
私は方向性を変える事にしました。
かくして生まれた暇つぶしの数々が、それなりの文量に達した頃、ファンタジーの王道的気質を持ったキャラクターだった少年は、馬の代わりにスクーターに跨り、弓や剣の代わりに警策を振り回す。自認、冴えない青年・山田に変容を遂げていたのでした。