本作の主人公、若町 明(わかまち あきら)。
この名前には、実在する三人の研究者の名前が隠されています。
「若」は若山照彦氏から、「町」は柳町隆造氏から、そして「明」は入谷明氏から、それぞれ一文字ずついただきました。
いずれも、クローン技術や動物の生殖・発生に関する研究に携わってこられた方々です。
人間を複製するという本作の題材を考えるうえで、架空の研究者である主人公の名前にも、現実の科学研究とのつながりを持たせたいと思いました。
もちろん、若町 明という人物も、彼が行った研究も、作中で下した判断も、すべてフィクションです。実在する研究者の思想や行動を反映したものではありません。
そして、名前を考えたときとは別に、物語を書き進めるうちに「明」という漢字にも、もう一つの意味を感じるようになりました。
明るさ。夜明け。そして、朝。
若町は、自分の命をつなぐために長い眠りにつき、目覚めた世界で、自分が何者なのかを探し続けます。
何も知らずに目覚めた白い部屋。外の景色を見ることのできない施設。自分の記憶すら確かではない日々。
彼が最後まで求めていたものは、果たして何だったのでしょうか。
健康な身体だったのか。失われた時間だったのか。それとも、窓から差し込む朝の光のような、ごく当たり前のものだったのでしょうか。
光を連想させる名前を持ちながら、最後まで窓のない部屋で過ごした男。
若町 明という名前が、物語を読み終えたあと、少し違った意味を持って感じられたなら幸いです。