駅前のカラオケルーム。
「聞いてくれへんか?」
一学期の期末テストが終わり、打ち上げで来店したのだが……マイクをぎゅっと握りしめ、硬い表情をする島本に、タブレットを膝の上でスクロールしながら、次に歌う曲を探していた私は、手を止めて顔を上げた。
「なんや、どないしてん?」
「……あんな。赤点、取ったかも」
「そうなん。えーっと、私なに歌おうかなー」
しょうもない話だったので、無視すると彼女がブチ切れる。
「でかい声出すなや! キンキン鳴っとるやんけ!」
声が反響し、鼓膜がビリビリ痛む。
「なにサラッと聴き流しとんねん! 赤点やぞ。赤点!」
「私には関係あらへんわ。赤点取ったんは自分のせいやろ。で、何教科? 1? 2?」
「……3です」
冷房の効いた室内なのに、彼女はたらたらと汗を流す。
ハッ。
――期末は全部で9教科。三分の一を落としたってことか。彼女がこれほど、おバカさんだったとは。
私はソファから腰を上げると、彼女の肩に手を置き、
「補習がんばれ、親友。そのぶん、私は夏休みを謳歌してやんよ」
「この薄情者〜! そこは『勉強、教えてあげる』って言うとこやろ〜!」
両肩をがっしり掴まれ、ガクガクと揺さぶられる。
「私も忙しいねん。夜ふかしして、布団との親密度上げたいから」
「忙しくあらへんやん! お願いや〜、ドラえもーん」
「誰が青い猫型ロボットや。私は助けへんで」
「ぐぬぬ。あんたは、あたしと夏休み、エンジョイしたくないんか?」
ポメラニアンみたいに、ウルウルした目で見つめられる。……ここで見捨てるのは、後味が悪い。
「……ったく、しゃあないな。その代わり、追試で悪い点数取るなよ」
「持つべきものは友やっ! よっしゃ、歌いまくるでぇ〜♪」
「調子のええやつ」
その後。島本は持ち前の歌唱力で、コレサワの『浮気したらあかんで』を熱唱。マラカスを振る私に、ウインクをくれる彼女。
地獄の勉強会は、もう頭の中で計画済み。今だけは、彼女に楽しい時間を堪能してもらおう。クククッ。
「ふぅ~、歌った。次は、あんたの番やで」
マイクを手渡され、彼女と入れ替わって、モニターの前に立つ。イントロが流れ始め――
「それでは、お聞きください。相川七瀬で、『夢見る少女じゃいられない』」
キャッチーなメロディに合わせ、気持ちよく歌う。島本は、合いの手を飛ばしたり、手拍子を叩いたりして盛り上げてくれた。
持つべきものは友。確かに、そうかもね。
でもな。追試、落としたらあかんで♪