◯挨拶
こんにちは
めげずにファンタジー勉強中です
1話ってこんな感じで良いのかな
などと思いながら書いてみました
◯タイトル
白剣
◯本文
俺は、ひとつのゲームを極めた。
名前は白剣。公式は勝手に「しろのつるぎ」と主張しているが、一度でもクリアしたプレイヤーは「ビャクケン」と呼ぶことが多い。
ゲームシステムは、簡単に言えばウ◯娘だ。
学園の入学から始まり、三年かけて「剣」を育て上げ、塔の攻略に挑む。
結論から言う。
俺は白剣のモブに転生した。
中肉中背で何の特徴も無い平凡な外見でイイィィィィィヤッフゥゥゥゥゥウウウ!
元の世界の俺は天涯孤独! 友達もゼロ!
恋人が欲しくて始めた白剣だったが、コミュ力が壊滅的過ぎて、史上初の塔ソロ攻略を成し遂げた程の猛者《ぼっち》!
攻略に成功した後、「本編を始めますか?」というウィンドウが現れ、度重なる警告の後で「はい」を押したら転生したってわけ!
未練など無い! 神に感謝!
イイイィィィィィィィィィィィィィィ!
という経緯で、俺は|黒剣《くろのつるぎ》学園の生徒になった。
現在、俺は学園の最底辺であるDクラスの窓際一番後ろの席に座っている。
ふと窓を見た。
見慣れない自分の姿が写っている。
一見するとクールなモブだが、中身は俺だ。故に頭の中は騒がしい。これから始まるゲーム知識無双に向けてワクワクが止まらない。
どのルートを選ぼうか。
やはりソロ攻略を成し遂げた際の白剣ルート61番がベストか。
いやいや、そうじゃないだろ。
思い出せ。俺がゲームを始めた目的を。
モテたい!
美少女とイチャイチャしたい!!!!
俺は、このゲームの全てを知っている。本気を出せば必ず桃色の学園生活を送れるはずだ。
Dクラスに在籍しているネームド女性キャラは二人なのだが……見たところモブの子も普通にかわいい。全員嫁にしたい。
(……待てよ?)
ふと思い出した。大半のモブは死ぬ。台詞も無い。全員を嫁にするならゲームのシナリオを書き換える必要がある。
それだけはダメだ。ゲームの知識が活かせなければ、俺はただのモブ。悲しいけれど、本来の運命を受け入れて貰うことにしよう。
――なんとなく隣を見た。
そして、偶然にも目が合った。
「……あはは、緊張するね」
瞬間、俺の脳裏に桜が吹き荒れた。
|桜剣《さくらのつるぎ》というものがある。
三年目のイベントにおいてヒロインの親友にあたる人物が完成させる桜色の剣だ。
塔の攻略を考えるなら、白剣以外の選択肢は無いのだが、桜剣ルートはシナリオの完成度が非常に高い。
物語としてはハッピーエンド。しかし大半のユーザーはバッドエンドだと叫ぶ。作中で最も可愛いサクラちゃんが必ず死ぬからだ。
現実世界ではサクラちゃん生存ルートを描いた同人誌が数多く作られた。かくいう俺も彼女を助けるため運営に怪文書《ラブレター》を送ったプレイヤーの一人である。
以上、回想終わり。
俺に笑いかけてくれた彼女は――そのようなシナリオとは無関係のモブだ。ゲームを知り尽くした俺でさえ名前が分からない。
恐らく、最初のイベントで死ぬ。
白剣の世界はとてもとても過酷なのだ。
しかし見捨てることはできない。
理由はシンプル。俺が、恋に落ちたからだ。
工学部マジックだ。あまりにも女子と縁が無いため、同じ空間に存在しているだけで「俺のこと好きなんじゃね?」と思ってしまう。このような悲しきモンスターに「緊張するね♡」と声をかければ、そらもうイチコロってわけよ。
「……な」
名前は? と聞きたかった。しかしコミュ障である俺の口からは掠れた声しか出なかった。
「……?」
きょとん。かわいい。
これは、あれだ。終わったわ。苦笑いされて話題を打ち切られるやつ。さよなら俺の初恋。
「あっ、名前かな? |桃花《ももか》だよ。君は?」
「……なぎ」
柳祐介です。
「凪くんだね」
はい、今日から凪くんです。
「うん、覚えた。これからよろしくね」
「…………」
俺は天使から顔を背け、親指を立てた。
「何それ。凪くん、面白いね」
俺は決めた。
シナリオ、壊します。
この子が死ぬ? は? 許せねぇよ。
そもそもゲーム世界に転生する話で壊れないシナリオなんて無い。どうせ壊れる。じゃあ、もう、積極的に破壊しよう。俺が神だ。
大丈夫。できる。俺は、初見殺しと理不尽のオンパレードだった塔をソロで攻略した男だ。仮に初見のイベントが発生してもプレイスキルで切り抜けられるはず。
桃花……君のことは、俺が守るよ。
んー、むちゅ、ちゅ、ちゅっちゅ。
冗談はさておき、プランを考えよう。
この後に起きる出来事は次の通りだ。
数分後、Dクラスの担当である男性教師が現れる。目の下にクマがある山本先生は笑みを浮かべて生徒達を称える。入学おめでとう。
そしてオープニングトークが始まる。
皆は既に知っているだろうが、という前置きの後、プレイヤーに向けて色々な設定を説明してくれるのだ。
この世界を生きる者は、16歳になると神から剣を与えられる。これを育てると超人的な力を手に入れることができる。
剣を育てる方法は数多くある。
最も効率が良い方法はダンジョン攻略。
ダンジョンは世界各地に存在している。
黒剣学園が独占しているダンジョンは、この世界で最も育成効率が良い。飛び抜けている。
このダンジョンに出入りできるのは、学園の生徒だけである。そして、剣を育成できるのは19歳までの三年間に限られる。
年齢は数え年。始まりは4月1日。
要は学園で過ごす三年間限定というわけだ。
必然的に、この学園を卒業した者達が、最も強力な剣を持つことになる。
剣の使い道は塔の攻略だ。
この世界は、塔から得られる恩恵で成り立っている。故に、強い剣を作れる学園の生徒達は将来が約束されているようなものだ。
要するに、強い剣を作った奴が勝ち組。
学園の生徒は超有利だよ嬉しいねって話。
この話を聞いた生徒達は目を輝かせる。
だが次の瞬間に山本はニヤリと嗤って言う。
――卒業、できればの話だけどね。
ここから話は一気に重くなる。
次に生徒達が知るのは、奴隷制度の存在だ。
詳細は|黒剣《くろのつるぎ》もしくは|白剣《しろのつるぎ》ルートで明かされるのだが、この学園は、お貴族様が既得権益を守るために作ったそうだ。
目的は、庶民から生まれた有力な子供を集め、奴隷にすること。万が一にも貴族の権力を脅かすような者が現れないようにすること。
このため庶民は漏れなくDクラス。
Cクラスより上には貴族しか存在しない。
「奴隷制度に関する詳細は、彼が説明します」
山本がネッチョリした声で言った。
もちろん俺は次の展開も知っている。
彼とは生徒会長のこと。
名前は|久遠《くおん》。通称、クソ眼鏡。
クソ眼鏡の隣には奴隷のメア様が居る。
メア様は2年生だが、選択肢によっては攻略対象となる。
黒髪ロングの美女であり、凛とした表情から発せられる罵詈雑言がマゾ達の心を摑んで離さない。
かくいう俺も「お宝」と名付けたフォルダに彼女のサディスティックな画像を百枚単位で集めたプレイヤーの一人である。
しかし、世の中には理解しがたい変態も存在している。あのメア様をマゾとして描く愚か者どもだ。全く理解できない。
さておき1年目はクソ眼鏡のような貴族連中を潰すことがメインとなる。後半にかけて暗躍する悪党の存在が仄めかされ、2年目で衝突。3年目で全面戦争という流れだ。
俺は思考を始めた。
桃花を守るため、どのルートを選ぶべきか。
ヴィィィィィィィィン!
(……何の音だ?)
俺は現実に意識を向けた。
そして、それを見てしまった。
(……なん、だと?)
モザイク。圧倒的モザイクだ。
とても十八歳以下の生徒達に見せられる光景ではない。
「こんにちは」
俺は、あのクソ眼鏡を知っている。
久遠だ。ルートによっては一年目の主人公に負けるクソ雑魚生徒会長である。
だが、隣の女は知らない。
あんな女、俺は知らない。知りたくない。
「紹介する。これは、俺が奴隷にしたモノだ」
彼は手に持った紐を引っ張った。
瞬間、この世のモノとは思えないような音が響き渡った。
(……まさか、これ)
白剣には、ふたつのモードがある。
ひとつは全年齢向けモード。俺が極めたのは、こちらの方だ。
ごくりと唾を飲む。
そして、心のモザイクを解いた。
現れたのは四つ這いの美女。
全裸だ。しかも陰部にヴィィィィン。
知らない。
こんな下品な光景、俺は見たことが無い。
だが、積み重ねたゲーム知識が叫んでいる。
俺が全く知らない裏の顔。もうひとつの道。
(……この世界、|成人向け《R18》モードじゃねぇか!?)
◯終わりに
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