それは玲香と再会してから初めて異世界に行こうとなったときだった。
「さあ、いせかいにいきましょう!」
その一言から玲香が詠唱し始める。
普通なら中級者以上の魔法使いの詠唱は数秒ほどで終わる。それは魔法を使い慣れることで勝手に速さを求めるからだ。
速さは使い慣れるほど早くなっていき、上級者以上になると無詠唱魔法が使えるようになる。
ちなみに、史上最年少大賢者と呼ばれる玲香は、無詠唱魔法を当たり前のように使う化け物だ。
それなのに。
(遅くないか?)
もう十分以上詠唱している気がするぞ。さすがに長すぎないか?
常に杖から光が出てるし……本当に大丈夫か?
そう思った瞬間、とてつもない浮遊感に包まれる。視界が真っ白になり、くらくらする感覚と激しく揺れる感覚があった。
その感覚も十分以上続いたような気がした。車酔いには強いが、少し酔ってきた。
意識を失いかけたとき、ようやく前世の実家の景色が見えた。視界はやがて鮮明になっていき、地面に足がつく感覚があった。
「よっしゃあ、てんいせいこうよ!」
「…………」
「どうしたのかしら?」
「いや、異世界転移魔法って大変なんだなって」
「いいえ、わたしがはじめてつかったときはえいしょうにさんじゅっぷんいじょうかかっていたわ」
「ええええええ!?」
詠唱だけで三十分ってとんでもない。しかも、玲香は常軌を逸した努力をするぐらいなのに。
「わたしいがいのひとはかほうのまどうぐがないとはつどうすらできないわ」
「怖え……」
「わたしもまどうぐをつくればはやくなるんでしょうけど……さすがにそこまでのじかんはなかったわ」
異世界転移魔法ってすごいんだな……。