足元を血で濡らしたまま私は彼らを見た。
蓮観がゆっくりと私に向かって歩いてきた。
そして、私の頬に両手を添え、ゆっくりと口付けをした。
「……そういえば褒美を与えていませんでしたね。これがお前の望みでしたか?」
「違いますよ。わたくしは、あなた様の中で生きていきたい。それが望みです。どんな形でも……」
「そうか……」
私は蓮観の首に手をかけた。
ゆっくりと、確実に締め上げていく。
蓮観は少し苦しそうな顔をしたが、申し訳なさそうに言った。
「先に謝ります……申し訳ございません……」
「何を……言って……」
「桂花様……」
「あいよ」
桂花が指先をこちらに向けた瞬間、瞼の裏に花が咲いた。
一輪、また一輪。
淡い光を宿した花々が瞬間に咲き乱れ、やがて風に吹かれて散り、また芽吹く。
ひとつの花がひとつの記憶であり、無数の花が織りなす庭が広がっていく。
そこに息づく蓮観の人生が、やわらかに香り立ち、私を抱きしめる。
数十年分の出来事が、花の濁流となって脳を駆け抜ける。
美しかった。
だがやがて花畑は消え、残ったのはただ無数の――彼から私へ注がれた「愛」だけだった。
濃密で、刹那で、取り返しのつかない愛。
「ああああああああああああああああああああああああああああぁぁっ……!!」
私は急いで手を離した。
だが、蓮観は満足した顔で、崩れ落ちていった。
生きている人間の動きではなかった。
「蓮観っ! 蓮観……!」
私は膝をつき、蓮観を抱き上げ、抱きしめた。まだ温もりがあった。
最初はお前が憎くて憎くてたまらなかったけど、話していくうちに、面白いやつだと……。
もっと話せば良かった……もっと気にかけてやれば良かった……もっと……もっと……。
「違う! 私は、四つ葉を、愛して……四つ葉が……絶対……だから、他の人間など……!」
好意を寄せられていることは分かっていた。
けれど、ここまで深い愛だとは知らなかった……。
お前の記憶、私と出会ってからは、ずっと私の事しか見ていないじゃないか……。
繰り返し、繰り返し、ずっと、ずっと、私を求めているじゃないか……。
「……私はお前に気持ちを返せないんだよ……」
この気持ちはどう表したらいいのだろうか。
分からなかった。
ただただ、ひたすらに悲しかった……。
酷いな……。
確かに、私は生きている限りきっとずっとお前のことを思い出すよ……。
蓮観を抱きしめたまま、私は俯いて泣いた。
涙が止まらなかった。