――――|終《つい》ぞ、戦争は終わらなかった。
巨人と神々による戦争の果て、残ったのは|灰燼《かいじん》のみだった。
なのに人々は|黄昏《たそがれ》と灰の中で、尚も争い続ける。
黄金樹は枯れ果て、|旧《ふる》きルーンは魔力を失い。
その|憎悪《ぞうお》を覆うために、神々は迷宮を|創《つく》った。
「それが、あのダンジョンなんですね?」
頭上、|遥《はる》か高く。
|逆円錐《ぎゃくえんすい》のように広がる塔、ソレを中心にした都市。
その塔へ向かう大通りを歩きながら、一人の青年は横の老人へ問いかけた。
老人は何も答えず、道端に座る。
彼の衣服はボロボロであり、この|荘厳美麗《そうごんびれい》な都市に似合わない。
ただ老人は、一言青年へと告げるだけである。
「望むのならば、最上階へ|赴《おもむ》くのだ。そこに、全ての真実がある」
次の瞬間、黄金の風が吹き荒れ。
老人はその場から消える、残されたのは一本の古びた剣だけだった。
青年は、古びた剣を手に取り|鞘《さや》に納める。
そして、再び塔を見た。
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暗黒《あんこく》の大陸、その中央の白亜《はくあ》の都市。
その中心に、聳《そび》え立つ塔。
逆円錐《ぎゃくえんすい》を描くように、空へと昇っていくソレは雲海《うんかい》をも超え。
その遥《はる》か高みで、二人の人間が戦っていた。
地上から凡そ数キロメートル、神々が作りし迷宮《ダンジョン》の内側。
構造《こうぞう》を端的《たんてき》に示すならば即ち神殿《しんでん》、黄金《おうごん》と白亜《はくあ》の神殿《しんでん》。
そこで戦うのは金糸《きんし》と銀糸《ぎんし》で編み込んだ鎧服《よろいふく》を着た美女と、獣皮《じゅうひ》から作られた皮鎧《かわよろい》を着込《きこ》む青年。
「アズルの者よ、名を名乗れ。散《ち》り逝《ゆ》く戦士を、忘れぬ為に」
美女が口を開く、同時に青年は首を掴まれ持ち上げられた。
青年の手から剣が零《こぼ》れ落ちる、意識が朦朧《もうろう》としているらしい。
流血《りゅうけつ》が地面に零《こぼ》れ落ち、筋肉が弛緩《しかん》する。
「まだ、死ぬわけにはッ!!!」
けれど、戦意《せんい》は消えていない。
此処《ここ》で死ぬわけには、叫ぶように暴《あば》れ彼女の腕をつかむ。
次の瞬間、青年の体から光る文字が現れた。
それは旧《ふる》きルーン、かつての神々が用いた魔術の礎《そ》。
光り輝くソレは、美女の体を蝕《むしば》むように光り輝き根を張ってゆく。
美女は一瞬だけでも顔を青ざめさせ、即座に青年を壁へと投げつけた。
「アズルのルーンか、だがソレで余力は消え去った。次の致命《ちめい》は躱《かわ》せまい、如何《いか》に幸運であろうとも」
美女は、刀身が二メートルもある緩《ゆる》やかに沿《そ》った刃《やいば》を持ち上げる。
黄金の鱗粉《りんぷん》を振りまく、その刃を。
青年に訪れるのは、間違いのない死だろう。
だがしかし、そんな状況でも青年は生を諦《あきら》めていない。
必ず生き残り、そして勝つ。
その一心で、必死に美女を睨《にら》みつける。
「去《さ》らば、強き者よ」
次の瞬間、黄金の光波《こうは》が飛来した。
青年の体を容易《たやす》く両断できる、数メートルにも及ぶ光波。
避ける、そう意識した時点で到達した刃は青年の体を持ち上げ壁に押し付けて。
さらには、その壁すらも破壊《はかい》し空中へと投げ飛ばす。
此処《ここ》は塔《とう》、この世界の何よりも高い塔の半ば。
地上が豆粒のように、虚空《こくう》が目先のように見える場所。
青年の体に衝撃《しょうげき》が走り、次に浮遊感《ふゆうかん》が現れて。
そして最後に、誰かの言葉が耳に届く。
『全ては、全ての真実のために。真実は、ケナズと共に』
そうして、青年の意識は消え去った。