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16 汚れた血 続き

最後の異世界転生譚 ――Echoes Beyond the Aurora Manuscript――
https://kakuyomu.jp/works/16818622171006782162


133話 相変わらず元気そうじゃな
ナルトリポカ集落跡に佇む三女継承者オロル。空を翔けてセリナと共に現れたウツロは、彼女と再会を果たすも、オロルの攻撃によって吹き飛ばされる。戦意を持って待ち構えていたオロルの神器「柱時計」が姿を現し、セリナとの戦闘が勃発。会話によって説得を試みるウツロとセリナだが、オロルは頑なに応じず、「わしを従わせたくば捩じ伏せ、腕の一本でももぎ取って見せよ」と告げる。

再会から攻防、会話、そして宣戦布告という緩急。今まで仲間だった継承者オロルを相手に戦う逆転の展開。
このあたりではオロルというキャラクターをかなり掘り下げています。
一方で、セリナは状況の突っ込み役に回ってもらいました。読者の真理を代弁するような役割で、転生者らしいメタ的な尺度で立ち回ります。


134話 慈悲は尽くした
オロルとの対話は決裂し、ウツロとセリナは戦闘を余儀なくされる。
オロルの神器「柱時計」は圧倒的な速さと重さで二人を翻弄する。セリナは未熟ながらも立ち向かおうとするが、神速の拳と時止め能力の前に翻弄される。
ウツロは「天秤の破片」を撒いて罠を張り、オロルに不意打ちの傷を負わせることで小さな一矢を報いる。一方、セリナは己の能力を解放すべく、禍人としての術式発動を始める。これに対し、オロルは「慈悲は尽くした」と語り、セリナに対して本気の攻撃を放とうとする――。

頼もしかった三女継承の時止めの能力が、今はウツロ達に牙をむく。圧倒的な力を体験する側の視点で戦闘描写をしてみました。バトルのテンポコントロールがオロルに掌握されているので、ウツロをどう対抗させるか悩みましたね。


135話 言葉がある
セリナに柱時計の熱線が放たれようとしたその瞬間、彼女は新たな術式『月輪・竹取』を発動。空間を裂いて熱線を無効化し、月光を纏う得物を手にする。追撃に備えて静止空間を展開していたオロルだったが、ウツロの仕掛けた天秤剣の欠片によって神器が干渉を受け、会話可能に。
ウツロは言葉を使い、詠唱によって奥義を起動させ、地面を崩落させる罠を発動。
三人は奈落へ落下し、時間操作を誤ったオロルは宙に孤立。最終的にセリナとウツロの連携によってオロルは両腕を落とされようとしていた――。

高潔ゆえの孤独な破滅。
オロルは義に殉じる人物であり、他人の都合に自らが従うことを是としません。「継承者としての筋」を通す存在だからであり、自身の存在意義に殉じる強烈な主体性こそが彼女の魅力です。

サブタイトルとなったセリフ「言葉がある」は、作品全体の テーマ(というより作者の信条?)です。あらゆる言葉は魔力を持っています。人を感動させたり、突き動かす原動力にもなります。


136話 断じて否
ウツロとオロルの戦闘に決着がつく瞬間、オロルの回想シーンに場面転換しています。

幼少期のオロルは、島での軟禁生活の中で、年長の少年・フリウラに心を許し、束の間の自由と幸福を得ていた。しかし十二歳の夏、彼は漁に出たまま帰らぬ人となる。
島の人々は海との共生ゆえに淡々としていたが、オロルの両親は密かに彼の死を都合の良い事故として受け入れていた。フリウラの死後、オロルは継承者の道を諦め、その後の人生60年を家に籠もり、狂気と執念の果てに独学で刻印術を極めた。
時を遡る禁忌の魔術を発動。

再び少女の姿で目覚めた彼女(オロル)は、世界が過去に戻っていることを知り、フリウラの命を救おうとするが間に合わない。同じ運命を繰り返すことに絶望した彼女は、「島長」の道ではなく「継承者」としての復讐を誓う――。


回想内で簡単に60年経過していますが、つまりオロルは二度目の人生を歩んでいます。
過去に囚われ、禁忌を行使しても望むのも果てにはいらないという真理を掴んだオロルは、継承者となるべく狂気的な努力を積み重ねる。

「時間が解決してくれる」という言葉がありますが、オロルはフリウラの死に傷つき、その痛みを手放そうとはしませんでした。
時間に解決されたくないから、時を司る継承者となる道を選ぶ。自分の問題に自分で決着をつけたい……そんな少女がオロルです。


137話 海へ帰れる
フリウラの死を事故として収めようとする父を、オロルは自らの手で海へ引きずり込んだ。
「わしではない。わしの手に、海の化け物が宿ったのじゃ」
化物はそれ以来、オロルの爛れた両腕に宿り、彼女を『壊れた』継承者たらしめた。

奈落にて繰り広げられた決戦の末、セリナとウツロの合撃によって化物の象徴たる腕は切断され、オロルは敗北を認める。
それは単なる敗北ではなく、贖罪であった。
わけを知らないセリナは、その顛末に納得がいかないが、ウツロは静かに理解を示す。オロルの「罪」と「過去」を断ち切る戦いは静かに幕を閉じる。

「これでわしは……海へ帰れる……」

オロルは化物という具象化された罪を両手に宿して生きてきました。それは「父を(そしてフリウラを)殺した手」であり、「過去を断ち切れなかった自分自身」でもあります。
その象徴を他者に切り落とさせることで、彼女は初めて敗北を認め、自らを赦すことができた。

本作の転生や時間遡行は、「過去をやり直せる」という甘美な希望のメタファーではなく、「運命をどう受け入れるか」の問いになっています。
オロルはその問いに「戦って、敗れて、赦されて、納得する」という道を選んだ。これは納得するためのケジメ。勝ってはいけない戦いだったのです。

……余談ですがオロルのモチーフになった映画があります。『ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日』この映画で、なぜ人は神を信じるのかという問いに答えが提示されています。面白いので観てみてね。

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