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16 汚れた血 について

最後の異世界転生譚 ――Echoes Beyond the Aurora Manuscript――
https://kakuyomu.jp/works/16818622171006782162


128話 異なる尺度
ウツロとセリナが神殿に向かう少し前、ハラヴァンは二人に対して「龍人の起源」と「蚩尤の秘密」について語り始める。

この世界の人類は、体力に優れた獣人種、魔力に長けた魔人種、呪力を操る賢人種の三つに大別される。
だが、歴史上突如現れた「蛇(龍人)」と「梟(蚩尤)」の存在は、それまでの秩序を大きく揺るがしていた。

ハラヴァンは問う。「最初の龍人や翼人は、どこから生まれたのか?」
ウツロは「異なる種族間の混血だ」と答える。

なんてことはない返答だが、この世界の常識からすれば驚くべき発想だった。
なぜなら、ラヴェル法典には異種族間の交わりを厳しく禁ずる戒律があるからだ。
そしてウツロ自身、この世界では一度も混血の者を見たことがないことに気付かされる。
それは単なる自然淘汰ではなく、文化と戒律による計画的・制度的な抹殺。間引きの結果であるとハラヴァンは示唆する。

ウツロは理解する。
龍人や翼人は、異なる種族の交配によって生まれた混血児だった。
だが見た目の異様さゆえに「異形」「忌むべき存在」とされ、生まれて間もなく殺されることも多かった。
だからこそ、数は増えず「突然現れた種族」として神話に刻まれたのだ。

つまり、異種族間に生まれた存在が「汚れた血」として忌まれ、法により歴史から抹消されてきた――。

物語の土台、世界の尺度が変化する転換が行われました。
ここで語られた真実は、後に神の掟に対する反逆の正当性を生み出す論理的土台となるはずです。


129話 その冒涜的な知性が、私とあなたを結んでいる
前話で龍人と翼人はどちらも混血種であるという仮説に至ったウツロたちは、さらにその続きとして、混血が排除され、そして選別されていった理由について語られる。

混血児は三種族それぞれの強みを複数持ち合わせる才能の結晶でもあった。それゆえに周囲の純血種からは妬みと恐怖の対象となり、外見的な異形も相まって、社会から忌避・迫害された。
そんな中、迫害を免れた少数の混血――特に上流層に生まれた特異な一族が存在した。彼らこそが、翼を持つ混血、ラヴェル一族である。

白い翼、美しい外見。人心を惹きつける話術、つまり巫力。
「他の混血とは違う」と主張し、自らを神の使いと称した詐術。

この選ばれた混血が、後に神殿を築き、信仰を掌握する神族へと昇りつめる。
一方で、残された忌まれた混血たちは「禍人」と蔑まれ、棲家を追われた――。

ウツロはさらに、「塔と楽園は本質的に同じ場所ではないか」という洞察を述べ、ハラヴァンはそれを肯定する。
そして最後に、ハラヴァンは穏やかな語り口でこう呟く。
「我らを生み出した主をも疑うその冒涜的な知性が、私とあなたを結んでいる……」
この瞬間、敵対していたはずのハラヴァンとウツロの間に哲学的・知性的な共感が生まれ、戦場の枠を超えた絆が芽吹きはじめる。

前話が「混血という構造的差別の歴史」を語ったのに対し、今回はその中でも勝者となった混血=ラヴェルの欺瞞と策略に焦点を当てています。
ここで語っていることは、単なるファンタジー設定ではありません。現実の人類史でも幾度となく繰り返されてきた権力構造の縮図でもあります。


130話 久しぶりだな
翼人の正体に続き、信仰支配と血の選別政策が語られる。

翼人は巫力により信仰を集め、正当性を偽造し、天使と蛇の物語を作り上げた。
しかし、翼人は一族の数が極端に少なく、血が濃くなりすぎることで自壊寸前にある。
そこで彼らは、「外から優れた血を取り込む」ために、神人種や継承者の血を求め始めたという。

神殿の真意は、「神の継承者と神族(とされる)翼人」の子を作ることで、信仰の正統性を装いながら血統の補完を図ること――。

この衝撃的な事実の渦中に、「ブーツクトゥス」という名でザルマカシムが再登場する。
彼は神殿近衛隊の副隊長。現在は偽名を使い、密かに龍人側と接触していたことが明かされる。
ザルマは「真実を知ったからには、ウツロもいずれこちら側につくだろう」と確信していた。

信仰とは何か、神とは何か、そして正しさとは何によって決まるのか。
ここから物語は「対、神殿戦」に移行していきます。


131話 殺するは蚩尤
ウツロはついに「百年前、継承者が来なかった理由」に直面する。
ハラヴァンとブーツクトゥスの問いかけにより、自分が暴走した理由を思い出す。継承者の不在……そしてその不在こそ、神殿が五代目継承者を攫い、存在を闇に葬ったためであるという真実に行き着く。
これは単なる失敗や偶然ではなく、神殿=蚩尤による「意図的な抹消」であり、ウツロ自身もその陰謀の中に巻き込まれていた。
怒りと悲しみに打ちひしがれたウツロはついに立ち上がり、神殿から「アーミラの灯」を奪取。
混乱に陥る神殿を尻目に、彼は龍人の領域へと戻り、新たな戦いの火蓋が切って落とされた。


慧のドラマとは別に、ウツロというキャラクターに最大級のドラマが描かれました。
神殿の欺瞞と蚩尤の邪悪が真に明らかになった瞬間。
100年の待機、狂気、暴走――それが「誰のせいだったのか」が明らかになる構造は、痛烈な衝撃展開です。

そしてブーツクトゥス(ザルマカシム)。単なる裏切り者ではなく、最も神殿の闇に近づいていた理解者だったという展開で、これまでの伏線と絶望的状況に、各勢力が手を結ぶ兆しがあります。


132話 後悔なんてさせない
神殿が継承者の娘三人を封じようとする中、ブーツクトゥスは奇襲による威圧でその動きを封じ、救出の時間を稼ぐ策を立てる。問題は神殿までの距離――だがそれを空からの急襲で解決しようという案により、セリナが龍体術式を受けることに。

ウツロは躊躇するが、セリナは自らの意思で決断。「後悔なんてさせない」と兄に宣言し、翼を得て神殿へと向かう。

同時に神殿側でも異変が走り、アーミラの処遇に不可解な動きが見られ始める。神器を失ったことを理由に幽閉しようとするその裏には、神殿――特にラヴェル一族の不穏な意図が透けて見える。
ハラヴァン・ブーツクトゥス・ウツロ・セリナの4人は一時的に別行動を取り、それぞれのルートで神殿を目指す。蚩尤との決戦の準備が、着々と進められていく。

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