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14 眠る躰を引きずって について

最後の異世界転生譚 ――Echoes Beyond the Aurora Manuscript――
https://kakuyomu.jp/works/16818622171006782162


111話 生きている以上は必要とされたい
死を経て異世界に転生した慧は、己の過去を語り終える。
それを聞いたデレシス、ラーンマク、アルクトィスの三人は、それぞれに理解と共感を抱きつつ、彼を「ただの戦闘魔導具」ではなく「仲間」として受け入れようとする。
アルクトィスの提案により、新たな名を授けられることになった慧。
様々な名前が提案される中、最終的にデレシスが提案したのは「虚《ウツロ》」という名だった。
仲間たちとの握手、信頼、絆の誓い――そして死別。
育まれた友情も、交わした誓いも、やがては崩れ、主人公「ウツロ」には再び虚無だけが残される。
そしてデレシスとの別れもまた、後世に災厄の名を残すほどの悲劇となる。

空っぽの男に“名”が宿ったエピソードです。
物語の本当の主人公としての再起動、再出発。
しかしそんな再出発すら「死に向かっていくもの」として書かれている構成は、文学的でありながら、物語全体のトーンがハードであることを伝えています。



112話 どんな気分だったの?
戦場で絶体絶命の状況下、ウツロとデレシスは荒ぶる龍を前に対峙する。デレシスは、かつてウツロが齎した核兵器に類する知識を基に、世界を破壊するほどの「奥義」を構築していた。それは一度きりの術式であり、使用すれば自身の命も失うことは必至だった。
ウツロは彼女を止めようとするが、デレシスは術式を発動させ、戦場を白光で包み、爆風の中に消える。
その後、ウツロは記憶の病室――212号室――で目を覚まし、そこで「理(コトワリ)」と名乗る角の生えた少女と邂逅。彼女はウツロの精神世界に突如現れた異物のような存在であり、何者なのかを語らないまま姿を消す。
再び意識を取り戻したウツロは、荒廃した無人の空間に独りでいることを確認し、明らかに時が過ぎた世界に取り残されている現実を受け入れる。

ウツロが核兵器という「世界に属さない知識」を持ち込んだことで、最悪の形でデレシスと死別する展開。
距離を司る天球儀の杖は原子同士の距離すら操り、再現不可能に思われた核兵器を生み出してしまったという設定です。
コトワリの正体、そして彼女が「何を見届ける役割なのか」にも注目したいところです。


113話 誰か俺を終わらせてくれ
目覚めたウツロは、戦後14年が経過していることを知る。デレシスの犠牲によって災禍の龍は滅び、戦場跡は「涙の湖」となっていた。彼は神殿の蔵に保管されており、神人種によって引き上げられたことが判明する。
神殿では様々な知識を学び、デレシスたちが背負っていた宗教と戦争の構造――「ラヴェル法典」の歴史的背景と三種族間の争いの因果――を知ることで、ようやく自分が何と戦っていたのか理解できた。
さらに百年が経ち、次なる継承者の誕生が予告されたが、彼女は生まれず、希望は潰えた。ウツロは永遠の身体で自我を保てなくなっていく。最終的に彼の精神は崩壊し、神殿を破壊する暴走状態に陥る――「誰か俺を終わらせてくれ」という悲痛な願いと共に。

宗教と神話の重厚な構築。
本編に軽く添えている程度かと思わせながら、作中に登場する書籍もすべて伏線です。三つの戒律や古文風の語り口で世界設定の骨格がぐっと強化されています。

「漂白された羊皮紙のように記憶が失われていく」――時間経過による静かな破壊の描写。戦闘が起きるのではなく、百年の精神的摩耗が「自己喪失」として描かれる過程を描きました。


114話 輝羅翠。太陽魄。七星。
暴走の末、ウツロは封印される。
精神の摩耗の果て、語りかける謎の少女によって、自分がかつて人間であった記憶と、今なお生き続ける苦しみを再認識する。封印されてからさらに100年。ウツロは神人種によって再構築され、神殿にて再び目を覚ます。
現代では彼は「先代の忘形見」として扱われ、当代の長女継承者――ガントールの随伴を命じられる。神族近衛隊長カムロはウツロを警戒するが、ガントール本人は穏やかで親しげに接し、先代ラーンマクとの面影を語る。ウツロはガントールの姿にラーンマクを重ね、失われた記憶と想いが蘇ってくる。

「忘れてしまった悲しみさえも風化してしまった」という二重の喪失は、感情の乾きと残酷さを如実に伝えています。私たちもわずか数十年で子供のころの記憶は薄れてしまうし、忘れたくない物事を忘れてしまう。そんな経験があるはずです。
「初めから俺は魔導具だったのではないか」というアイデンティティの喪失の問いは、読者の心にも強く残るのではないでしょうか。

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