書けない。
何も書けない。
笑ってしまうくらい、何も書けない。
言葉が湧き出てこないんだ。
泉が枯れたように、語彙が全て霧散してしまって、マトモなことが何も浮かばない。
ぼやけた霧の中から、塊のような単語が時たま現れはしても……
全て文章の形を取らずに流産してしまう。
今に始まったことじゃない。
ずっとそうなんだ。
もう何年も前から、文章と呼べるものなんかずっと書けていない。
霧のせいだ。
脳にある霧。
脳に霧がかかっているせいだ……
たしか、数年くらい前からある、霧。
髄液が蒸発して気体になっている。
汚らしいガス。
ガスが溜まっているから頭が重い。
首を傾げると、液が音を立ててさらさら流れてゆく。
妙に現実のことが、現実味を持っていない。
世界を傍観している。
まるで半身浴のような……
水に半分だけ浸かっているような気分。
自分のことさえ、どこか他人のことみたいに思えて……
誰かの会話なんて、何言ってるんだかさっぱり分かりはしない。
電車の線路を見るたび思うんだ。
今なら飛び降りられる……
以前の僕なら、飛び降りるなんて怖くて出来はしなかった。
だけど今なら……
いとも容易く飛び降りてしまえる気がする。
飛び降りた先に何が待っているのかなんて考えもせず、ただ何の気も無しに飛び降りる。
車輪で粉々にされてしまって。
そうしたら、はじめて現実へ帰還するだろう……
痛みという現実。
それでもやっぱり、他人事に思えてしまうかもしれない。
……数ヶ月ほど前に書いた小説。
読み直してみた。
ひどいものだ。
もっとマシなことは書けないんだろうか。
だいいち文章がひどい。
まるで痩せて貧相で、牽引に欠けた、愚にも付かない文章。
それも霧のせいなんだ。
霧が晴れていれば。
僕の頭がおかしくなってさえいなければ。
もっと現実を生きたい。
本当はこんなもの書いている場合じゃないんだ。
徹頭徹尾オナニー。
誰に読ませるつもりでもないのに、何の意味があるというんだろう。
だからこれは書くのをやめる。