柊 夏樹(18)
この物語の主人公(?)です。花織の実家からは離れた地域(おそらく関東圏)に住んでおり、現在は自宅から大学に通っています。
細々としていながら、エネルギッシュな部分も持ち合わせており、習慣化した物事には精力的に取り組めるようです。
年上の相手の前ではどこかお堅いところがある彼ですが、例に漏れず“そういう”年頃なので、いろいろと持て余しているようです。いずれにせよ、そういった真面目なところは彼の取り柄でもあり、最大の短所でもあります。
母(雪絵)の食育の影響で、わりと好き嫌いせずなんでも食べます。ひょっとすると、味覚が少し鈍いのかもしれません。
夏樹はある時期から、ぴたりと身長が伸びなくなってしまいました。そのせいで、高校では周りの同級生よりも身長が低かったようです。ですが、駅のホームで花織と並んで話す際は、その身長が思いがけず役立っていました。
綾瀬 花織(28)
故人です。夏樹という一人の青年の純情を、図らずして狂わせてしまった張本人です。
生前は実家で暮らしており、府内で事務職をしていました。夏樹の叔母という立ち位置にしてはずいぶん若く、昔から彼を年の離れた弟のようにかわいがっていたそうです。あくまで家族だった、はずです。
花織は生前、勉強熱心な夏樹によく本を買い与えたり、彼が興味を持ちそうな小説を貸したりしていました。彼女は亡くなる半年前から、すでに自分の命が長くないことを予感していたので、無意識のうちに財布の紐が緩んでいたのかもしれません。
彼女はいつも、夏樹に本をプレゼントするとき「急いで読もうとしなくていいよ」と言い聞かせていました。彼女が夏樹に買い与えた大量の本は、今でも彼の勉強机の上を埋め尽くしています。
雑食な夏樹とは違い、繊細に味を感じ取れる舌を持っていたようです。そのため、幼少期の彼女はよく好き嫌いをして、両親と智陽(兄)を困らせていました。
もしかすると、彼女の偏食は大人になったあとも変わっていなかったのかもしれません。
花織にはかつて彼氏がいました。高校卒業と同時に付き合い始め、大学生活の途中で別れることになり、そのまま彼氏は大学を中退しました。花織はそのことを、いつかの喫茶店で夏樹に話していました。花織が亡くなった今、夏樹がその話を詳しく訊く術はどこにもありません。
柊 雪絵(40)
夏樹の母です。
子供には比較的オーガニックなものを食べさせて育てるタイプの親です。しかし、ばりばりとした意識の高い母親というわけでもなく、ロッキングチェアでゆらゆらと揺れながら、つかまり立ちを始めた夏樹を見守っていました。無口なタイプの放任主義者です。
柊 智陽(39)
花織の兄。つまり夏樹の父親です。
智陽の婿入りは、雪絵および雪絵の両親との総意で決まったことだったらしく、あまり深刻な理由ではないようです。
花織と夏樹の関係についてはまったく気づいておらず、「実家に帰るたびにコーヒーとパウンドケーキで餌付けされている」くらいにしか捉えていなかったようです。
清水 しえり(33)
花織が勤めていた会社の先輩です。既婚者です。
彼女は入社して間もない頃から、それなりに仕事を任されていたようです。割り切りの早い性格と、持ち前の要領の良さで、責任感に押しつぶされることなく仕事をこなしていました。
周りに自分の意見を言うことにためらいがなく、それでいて他人に干渉することもないため、仕事場で自分の心を削ることは少なかったようです。
花織の教育担当になってからは、仕事中に談笑をする(主に花織と)ことが増えたようです。隣のデスクで事務作業をしている花織に、しえりはいつも他愛ない話をふっかけていました。花織のデスクが空席になってからは、また以前のように黙々と仕事をしています。
最近の彼女は、自宅でチャイを作ることに没頭しているようです。夫と過ごす時間もそれなりにあり、休日の夜はビールを飲みながら映画鑑賞をしています。しえりの最近のおすすめは「ヴィーガンズ・ハム」です。