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夜散歩

この時間の散歩は良いものです。
近所にも拘らず、まるで旅先の知らない片田舎にでも来たような気持ちになります。
自分が産まれなかった土地で、自分を誰も知らず関わらずに重ねられた時間を幻覚します。

静かなのに音に溢れた夜でした。
遠く遠く、森の木々に車の走行音が反響しています。
虫の声。用水路の水流。家から漏れる暖色の部屋灯りに照らされる、夜気に濡れたアスファルト。
確かに感じる気配や足音に反して、誰にも会うことのない深い夜。

記憶にあった家屋がなくなり、湿った土の匂いだけが残っていました。どんな家かは覚えておらず、ただ“あった”ということだけが、特別確かに郷愁めいた感情を誘います。

建設中の、まだ骨組みだけの家もありました。置かれたままの木材が、空気の冷たい湿り気を吸い、しつこいのに爽やかな生きた樹木さながらの香りを発していました。

水音と慣れない匂いと空気感。
本当に、夜の温泉街を足の赴くままにしているような特別な寛ぎと、空間からの好意を受けたような幸福がありました。

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