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「こんなに晴れた素敵な日には」あとがき

(※小説本編のネタバレが含まれます。)


 この作品は元々「ノクターンノベルズ」「ハーメルン」等で官能小説として公開していた作品でした。私は2023年末頃から2年間近くほとんど官能小説しか書かない生活を送っており、その理由は官能小説を書く面白さに目覚めたこともありますがぶっちゃけて言うと全年齢向け小説を書くよりもずっと多くのPVやブックマークを得られたからです。私は官能小説家としても大して人気はありませんが全年齢向け小説はどれだけ力を入れて書いて更新しても1日30PV程度が当たり前であるのに対して官能小説では更新しなくても1日50PVということも珍しくありません。参考までに「小説家になろう(ノクターンノベルズ・ムーンライトノベルズ含む)」での私の総ブックマーク数/総ポイント数は全年齢名義(輪島ライ)では63/622であるのに対しR-18名義(馬門戒明)では237/854と雲泥の差があります。一方で総文字数は前者が1,497,410に対し後者が561,660と2倍以上も差があり、ここまで創作に当たっての「コスパ」の差を見せ付けられるともはや官能小説しか書く気にならず私は2年間近くも全年齢向け小説をほとんど書かずに過ごしてきました。

 しかし私は人生で官能小説というものをあまり読まずに生きてきた人間で、夢中になって読んだとまで言える官能小説はアマチュアの作家さんの作品を含めても両手の指で足りるほどしかありません。曲がりなりにも小説自体は長年書いてきたので小説媒体以外の官能作品、言ってしまえばR-18同人誌やR-18漫画作品、時にはR-18アニメやアダルトビデオで得た知識と着想を基に2年間で20作品ほどの官能小説を書きましたが、元々読者としての蓄積がろくにないので2025年に入ると早くもネタ切れが見えてきました。

 私が書いた官能小説は全年齢向け小説に比べるとずっと多くのPVを獲得でき、今の所の官能小説の代表作である女性向け逆ハーレム官能小説「淫獄地域枠」は某官能小説サイトで総合6位にまで食い込むことができました。しかし今現在の日本で大々的に行われているほぼ唯一の官能小説の新人賞であるフランス書院文庫官能大賞ではこの作品も含めて一次選考通過止まりで、先述の通りネタ切れで以前ほどは新作を書けなくなっている現状では官能小説の執筆もあまり未来がないように思われました。そもそも官能小説はあくまで官能小説なので医師としてのXアカウントで実績として公開することができる性質のものではなく、私は「そろそろ全年齢向け小説の世界に戻りたい」という思いを抱くようになっていました。そんな中で突然書きたくなって初期臨床研修のラストスパートと並行して書くことにしたのがこの作品の原作である「こんなに晴れた素敵な日には先輩の首を絞めたい」でした。

 この作品のコンセプトは「自分が書きたい題材を全て盛り込む」ことで、これは私の全年齢名義の代表作かつ本作とも世界観を共有する医学生小説「気分は基礎医学」と同じコンセプトでした。しばらく前まで世間を騒がせていた近畿圏内の某国立医科大学で発生した2つの事件を物語の背景とし、自分自身の研修医としての臨床経験も大いに盛り込んだ展開にしました。私が書く官能小説にはいわゆるサドマゾ(SM)の要素がよく描かれ、その中でも男性がヒロインに首を絞められたり殴られたりするという描写が私は大好きだったのでこの作品ではそのマゾヒスティックな展開を全面に押し出すことにしました。

 官能小説のヒロインは特に男性向け作品であれば作者自身や読者の理想の女性像を反映することが望ましいものですが、本作の主人公にしてヒロインである日比谷光瑠は私の理想的な女性像とはかけ離れていないにしても直接それが反映されてはいません。日比谷光瑠には特定のモデルはいるともいないとも言え、というのもこのヒロインは私が人生で出会って印象的だった女子医学生や女医のキャラクターを混ぜ合わせて一人の人物に仕立て上げたものだからです。「成績優秀で臨床の実力も高い1年目初期研修医」「近畿圏内の某国立医科大学出身」「同じく研修医(もしくは医学生)の彼氏と仲良くやっている」「職場の人間関係に悩んでいる」「信じていた相手から裏切りに遭い苦悩する」「教育虐待を受けて育った」といった日比谷光瑠の持つ要素は全て私が人生で出会った女子医学生や女医に基づいており、日比谷光瑠というヒロインには私が女子医学生・女医という存在をどう見ているかという価値観が反映されているとも言えます。

 R-15相当の全年齢向け恋愛小説「こんなに晴れた素敵な日には」として生まれ変わったこの作品は主に描写の強化という目的で加筆修正を行っているものの終盤までは元の官能小説とほとんど同じ展開ですが、途中からifストーリーとして分岐し大きく異なる結末を迎えています。これは全年齢向けに書き直すに当たって元の官能小説のクライマックスにあったセックスシーンを削るために結末を変えたという訳ではなく、元々は官能小説としてもこの結末になる予定でした。私個人の意見としてはヒロインが相手の男の首を絞めたり殴ったりするのは立派なセックスシーンだと思うのですが今の日本の官能小説界隈ではそのような認識は一般的ではなく、具体的な性交描写がなければ官能小説として扱われません。この結末では最後までまともな性交描写が描かれず読者からクレームが来ることを予期して元の作品ではやむなく(妥協して)あのような結末にしましたが、私が本当に書きたかった結末は全年齢版の方であり、本当に書きたかった展開をどうにか公開したいという思いから本当に久々の全年齢向け小説として「こんなに晴れた素敵な日には」を書き上げたのでした。

 上記の理由から本作の結末はパソコンのノベルゲーム風に言えばトゥルーエンドということになりますが、トゥルーエンドはあくまで本当の結末という意味でハッピーエンドと同義ではなく、ヒロインである日比谷光瑠にとっては官能小説版の結末の方が明らかにハッピーエンドと言えるでしょう。偽りのハッピーエンドと苦しみの残るトゥルーエンドのどちらが作品として魅力的かは、読者の皆様のご判断に委ねたいと思います。

 余談になりますが、本作のモチーフとなった作品は君塚良一脚本による名作テレビドラマ「ずっとあなたが好きだった」(1992年)とその関連作品「誰にも言えない」(1993年)であり、各話のサブタイトルにもこの2作のタイトルを拝借しました。この2作に照らし合わせると本作の主人公である日比谷光瑠は賀来千香子、その相手となる嶋田興大は佐野史郎のイメージです。私自身はアニメや映画ももちろん好きですが一番好きな映像媒体の作品はテレビドラマであると言えるほどこれまで様々なテレビドラマを見てきており、その経験を本作でも活かすことができたのは幸いだったと思います。昨今は特にアニメ映画の爆発的ヒットにより実写作品、特にテレビドラマという媒体は価値を低く見られがちですが実写テレビドラマには実写テレビドラマでしか描けない題材というものが確かに存在しています。今後も様々なテレビドラマを観て自らの血肉としていきたいものです。

 久しぶりにまともな全年齢向け小説を書いたことで、私もそろそろ全年齢向け小説の世界に戻ろうかという思いが強くなってきました。ネタ切れが深刻といっても官能小説で書きたい題材はまだまだあり、そもそも今現在は専攻医としての医師生活で忙殺されている毎日ですが、今後は官能小説と全年齢向け小説を並行して書いていければと思います。私自身の初期臨床研修が途中から地獄と化したことで半ば絶筆となっている「気分は基礎医学」研修医編もいずれは連載を再開できればと思います。最近ではウェブ以外の媒体で全年齢向け小説を書く機会も頂けており、いつまでも「見習い」の肩書きが取れないウェブ小説家見習いですが小説を生涯の趣味として大切にしながらこれからも執筆を続けていく所存です。


 以上

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