朝は寝過ごし、昼は忘れ、夜の三度目の正直。おもろいゲームをやると執筆がおろそかになる弱い人間ですまん……
―――
9
「初めての日本の学校は楽しかったのです! いっぱい話しかけられて緊張しましたけど……いい人ばかりなのでなんとかやっていけそうなのです」
始業式の日が終わり、家のキッチンにて。
シャルと二人で夕食の調理を進めている傍ら、楽しげに零した呟きに安堵する。
「それならいいけど、群がられて迷惑なら素直に言った方がいいぞ」
「迷惑とは思っていないのです。あんなに歓迎されると思っていなかったので、びっくりはしましたけど……」
「数日はあんな感じだと思った方がいい。美少女編入生だからな」
「アニメでも定番のキャラみたいな体験をするとは思わなかったのです。大変になったらキヨヒコを頼るのです。いいのですよね?」
「……まあ」
歯切れの悪い返事はシャルが俺を頼った場合クラス内のヘイト管理が面倒だなと思ったからであって、シャルに頼られるのが嫌なわけではない。
その時は颯真と西沢を巻き込むとしよう。
あの二人が一緒なら嫌な目では見られない……はずだ。
最悪颯真を差し出せば女子は封殺できる。
男子は少しでも頭が回るなら手出ししてこないだろうし。
最強の防壁たる西沢もいるし、シャルに嫌われたくはないだろうからな。
「でも、授業についていけるかは心配です。日本語でお話するのはできるのですが、ライティングとリーディングが不安で」
「日本語って難しいもんな。ひらがなカタカナ漢字で三種類ある上に何文字あるんだって話だし。話せるだけで凄いと思うけど……」
「なので、授業中もキヨヒコに聞くと思うのです。……いい、ですか?」
「もちろん」
上目遣いでの頼み事に当然とばかりに頷く俺。
断るわけないでしょうそんなこと。
授業中にシャルとヒソヒソ話なんてしてたら男子からのヘイトがマッハで溜まりそうだけど。
日本語は難しいから仕方ないだろ。
俺がシャルの力になりたいとか、そういうわけじゃなくてだな?
「ふふ、やっぱりキヨヒコは優しいのです」
「これくらいは普通のことだよ。美少女から頼られたら嬉しいし」
「……可愛い女の子なら誰でもいいのですか?」
「…………非常に困る質問はやめない?」
現実的にはどんな美少女でも頼られたら嬉しいと思う。
とはいえそれは節操がないと見られてもおかしくはなく、返答に窮してしまった。
俺はオタク、二次元を愛し二次元に生きる者。
決して三次元に浮気をする気はなく、興味もないと鼻で笑っていたわけだが――そのスタンスを変えるつもりは毛頭ない。
だが、しかし。
オタクの身で口にするのは心苦しく、お前如きが何言ってんだと指を刺されそうなのは自覚した上で、三次元には三次元なりの良さがあることは認めざるを得ないだろう。
それもこれもシャルが可愛すぎるのが悪い。
もっと悪いのは自分の可愛さを半端に自覚した上で、無自覚な距離感で接してくること。
しかも金髪碧眼英国美少女が、だぞ?
オタクじゃなくても好きになるだろこんなの。
……シャルのことを異性的に好きなのか、という話は一旦否定しておくが。
「ああ、そうだ。明日はバイトがあるから夕飯は母さんたちが帰ってくるまで待っていてくれ」
ジト目を俺に注ぎ続けるシャルに気まずさを感じて話題転換を図ると、こてんと可愛らしく小首を傾げてみせた。
「バイト……アルバイト、なのですか?」
「オタクをやるには金が必要なんだ。書籍、サブスク、グッズと悪しき文明のソシャゲガチャ……うっ、頭が」
蘇る爆死の数々。
最低保証ばかりの十連、ピックアップは当然すり抜け、出たと思ったらほぼ天井……どうして俺はこんなものに金を突っ込んだのかと後悔しても繰り返す負の遺産。
でもやめられないんだなあ、これが。
癖に刺さったキャラは引かねばならない。
たとえ腹を切る定めにあるとしても。
引くまで引けば無料って言葉もあるしな!
「なるほどなのです。キヨヒコは大変なのですね」
「好きでやってることだからなんとも。金がない方が困るし」
「……わたしもバイト、興味あるのです。お小遣いはありますけど、いろいろ揃えるのに使ってしまいましたし。折角日本にいるならオタ活を楽しみたいのです!」
女の子は色々とお金を使うらしいし、オタ活もしたいとなればなおのこと。
日本の高校に通うだけでも一苦労だろうから、慣れてからでもいいのではと思うが……本人の意思を尊重するべきか。
シャルにちょうどいいバイト、ねえ。
「俺のバイト先ってファミレスなんだけど、店長に相談してみる?」
「いいのですか?」
「相談するだけタダだし、人手が増えるのは助かるからさ。シャルも知り合いがいた方が働きやすいだろうし」
「それならお願いするのです!」
「了解。ホールとキッチンのどっちがいい?」
「キヨヒコはどっちなのですか?」
「日によってかな。シャルの料理の腕ならキッチンも大丈夫だろうし、ホールも日本語がこれだけ話せるなら問題ないと思う。……多分、ホールになりそうだけど」
店長が「こんなド級の美少女を裏方で働かせるなんてもったいない」とか言いだす姿が目に浮かぶ。
俺のその意見には大賛成なんだけど、面倒事も引き寄せるからなあ。
厄介客の相手をシャルにさせるのはちょっと……いや、かなり心苦しい。
その辺も含めて俺がカバーしてやれ、と言われるのがおちだな。
ま、シャルの頼みなら相談するだけしてみよう。
顔見せたら一発オーケーだろうけど、念のためな。