『勘違いしないでください。』
ある日の放課後、俺一一神楽坂焔は、ナンパされている一人の少女を助けた。
その少女の名前は、柊明日香。
名門・神崎家に仕える美人メイドで、冷静沈着、容姿端麗。
そして何より、仕えているお嬢様を誰よりも大切にしている少女だった。
そんな彼女は、助けた俺に対しても相変わらず素っ気ない。
「助けてもらったんだから、もう少し愛想よくしてもいいんじゃないか?」
「必要ありません。私は麗華様にしか愛想を振りまくつもりはありませんので」
…・どうやら俺は、こんでもなく手強い相手を助けてしまったらしい。
しかし、俺と明日香の出会いは、それだけでは終わらなかった。
明日香が仕えるお嬢様一一神崎麗華は、誰もが振り返る美貌を持つ学園の人気者だ。
清楚で上品な雰囲気をまといながら、オタクにも分け隔てなく接する気さくな性格で、まるでギャルのように距離感が近い。
そんな麗華は、ある日、明日香のちょっとした変化に気づいてしまう。
「ねえ、明日香。最近、焔くんの話ばっかりしてない?」
「......そのような事実はありません」
「えー?じゃあ、焔くんと目が合ったときに、ちょっと嬉しそうにしてるのは?」
「っ!? 麗華様!!」
「ふふつ、かわいい♪」
普段はどんなことにも動じないクールなメイドが、俺のことになると途端に調子を狂わされる。
そんな明日香をからかいながらも、麗華は俺たちの恋を誰よりも応援していた。
一方の俺は、明日香の気持ちになど気づくはずもなく、今日も彼女の素っ気ない態度に振り回されている。
…・・もっとも、俺にも誰にも明かしていない秘密があった。
神楽坂家は、代々ボディーガードを生業としてきた家系。
そして俺自身もまた、その血を引く人間だった。
普段は目立たず、平穏な高校生活を送りたい。
けれど、大切な人が危険にさらされれば、その本性が顔を出す。
そんな俺の意外な一面を知ったとき、明日香の心にも少しずつ変化が訪れていく。
「....あなたは、本当にずるい人ですね」
「え?俺、何かした?」
「......もういいです」
いつもは冷静で、お嬢様一筋。
誰に対しても簡単には心を開かない美人メイド。
そんな彼女が、少しずつ俺を特別な存在として意識し始め
る。
そして、俺たちの距離が近づくほどに、明日香は自分でも知らなかった感情と向き合うことになっていく。
もちろん、麗華がその変化を見逃すはずもなくーー。
「明日香、焔くんのこと好きなんでしょ?」
「す、好きではありません!」
「じゃあ、私が焔くんにアプローチしちゃおうかな?」
……・つ!そ、それは…!」
「ふふつ、やっぱり好きなんじゃん♪」
クールなメイドと、彼女をからかうお嬢様。
そして、そんな二人に振り回される俺。これは、お嬢様公認(?)の恋の応援を受けながら、不器用なメイドが少しずつ恋を知っていく物語。