遺失研究文書保管所へようこそ。
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No.382 精霊i5873における研究記録 (主律星インウィディアにて収録)
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精霊資源化研究において、i5873は特異かつ重要な存在である。
三次元空間においてH2Oを媒体とするi5873は、当初ストレス耐性の欠如により、破棄対象とされていた。
しかし、その評価はデータ収集のために行ったストレス超過実験により一変する。
身体及び精神的負荷を限界以上に高めた結果、i5873は分体を生成した。
ストレスに対応するための防衛機構の働きが要因として挙げられる。
精霊の精神分裂に関しては先行研究があり、特段珍しいとは言えない。
だが、i5873は媒体ごと分裂したのだ。
これは他に類を見ない反応である。
我々のチームは実験継続を申請、認可を得る。
予算も割り当てられ、私も今の地位を維持できる見通しだ。
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i5873に関して、分かったことがある。
この個体は、一定のストレス値を超えると分体を無限に生成するのだ。
H2Oというありふれた元素を媒体としていることが関連していると思われる。
既に分体は百を越えた。
ただ、当実験は予算を非常に圧迫する。
局からも度々指摘を受けており、継続するためにはより効率的な手法へ移行しなければならない。
リソースを要する精神負荷を取りやめ、よりコストを圧縮できる身体負荷装置の開発に着手せざるを得ないだろう。
上へ申請は通してある。
数日中に五十平米ほどの設備が構築される見通しだ。
まったく、ほぼ無尽蔵なエーテルをなぜ絞るのだろうか。
この宙域へ星ごと移動してきてからというもの、■■■■のバイタルは安定しているというのに。
局は何を心配しているのだろうか。
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新しい装置は目覚ましい成果を上げた。
次の学会ではおそらく私の発表が目玉となるだろう。
タイトルはそうだな。
「電気ショックによる精霊分体生成理論」とでもしておこうか。
この理論が他の精霊へ転用できれば、目下の課題である精霊の個体差による性能のばらつきを解消できる。
そうすれば現状の無駄の多いアナログな生産工程を一気に省略し、量産へと移れることだろう。
i5873について追記するとすれば、分体が一万を超えた辺りから、各個体における自我が弱まっているようだ。
知能や認識力に関する試験でも軒並み低い数値を叩いた。
従来の運用とは異なるものの、単純作業に特化した、並列的な処理を行わせるにちょうどいいだろう。
分体同士を連結させ、ニューラルネットワークを構築するのも面白いかもしれない。
この研究には、価値がある。
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バカな。
予算が凍結されるだと?
そんな事があっていいはずがない。
この研究は人類を更なる高みへと押し上げる非常に価値のあるものだ。
頭の硬い連中は分かっていない。
……やはり、制御に必要な端子の消耗が激しすぎたか。
だが対策はある。
件の素体より基幹細胞を拝借した。
証拠は完全に消してある。バレることはない。
この細胞を培養し、端子さえ量産できれば、i5873をそれこそ無限に増やすことができる。
もう培養槽はi5873の分体で満たされている。
自我は完全に消滅したが、端子で指示さえ出せば良い。
やはり、学会での発表が響いたか。
堅実かつ控えめだったことが埋もれた原因だろう。
ならば、やはりあの計画を実行するほかはない。
i5873の分体を連結させ、ニューラルネットワークを構築するのだ。
個体を失っても、他の個体が記憶や経験を保持する究極の媒体が完成する。
当研究をこの星で継続することは難しい。
しかし、都合が良いことに、建造中の移民船に空きがあった。
暫くの間、研究よりも根回しに勤しむことだろう。
ああ、煩わしい。
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なんとか口実をでっち上げ、移民船へ設備ごと移すことができそうだ。
もちろん、分離可能なドックとして。
植民先も申し分ない。
かなり辺鄙な宙域だが、局から離れられる点も気に入った。
これで思う存分研究を進められるだろう。
それまでの間、学会からは遠ざかるものの問題はない。
時間はいくらでもある。
名前や過去の経歴など些細なものだ。
辺境星で花開く、人類史を変える発見。
いいじゃないか。
非常に楽しみだ。
そうだ、コロニーシップが星に到着するまでの間に、あの低能な奴らのアドバイザーをしてやるのも一興だ。
なにが自然主義だ。
自然の定義すらできていない奴らなど、詭弁をぶつけるだけで事足りる。
星にはまだ名前もついていないようだったが、この際、私が命名するというのはどうだろう。
学会の奴らに一泡吹かせてやるという意味を込めて、「インウィディア」と名付けよう。
世界が私の研究成果に嫉妬するのだ。いい気味だ。
星の名前と精霊の名前さえ一致していれば、大衆はその星を精霊が管理しているものだと誤認する。
星が精霊を必要としているかいないかなど、どうでも良い。
局もわざわざそんなことを指摘するほど暇ではないだろう。
ああ、楽しみだ。
まるで星そのものが私の実験場となる。
数世紀経てばi5873、いや、インウィディアが精霊研究のモデルケースと呼ばれるに違いない。
齢数百歳を経ても尚こんな気持になれるとは。
やはり、研究はやめられない。