今回、『曲が終わるまで』から始まる四部作を書き終えました。
最終話のタイトルは『曲が終わった』です。
この作品を書くきっかけになったのは、以前書いた『フレンチキス』という作品でした。
『フレンチキス』を書き終えたあと、自分の中に「もう少しこの方向を掘ってみたい」という気持ちが残りました。
恋愛そのものを書くというより、ある程度人生を重ねた男女が、どんな距離で相手と向き合うのか。
若い頃のように勢いだけでは進めない。
それぞれに生活があり、背負っているものがあり、その中で相手との時間をどう受け止めるのか。
そういう大人の恋愛を、もう少し書いてみたいと思ったのが今回の始まりです。
そしてもう一つ、今回は自分なりの挑戦として「会話」をかなり前面に出しました。
これまでも会話の多い場面は書いてきましたが、今回は人物同士の言葉の応酬そのものを物語の中心に置いています。
何を言ったかだけではなく、
なぜそこで黙ったのか。
なぜすぐに返事をしなかったのか。
なぜ少し違う言い方をしたのか。
そういう部分から二人の距離が見えてくるような作品にしてみたいと思いました。
書き始めた時は、正直かなり迷いました。
会話だけでどこまで人物を立たせられるのか。
説明を減らしても読者に伝わるのか。
似たようなやり取りが続いて単調にならないか。
そういう不安はずっとありました。
それでも書いていくうちに、会話には会話ならではの面白さがあると感じるようになりました。
人は必ずしも本音をそのまま口にするわけではありません。
言いたいことを少しずらしたり、冗談にしたり、相手の反応を見ながら途中で止めたりする。
むしろ、そこにその人らしさが出ることもある。
今回は、そういう「言葉の外側」にあるものも書いてみたかったです。
そして、この四部作で描きたかったもう一つのものが、「関係を急いで完成させない」ということでした。
大人になると、恋愛にも結果を求めがちになります。
付き合うのか。
別れるのか。
一緒になるのか。
ならないのか。
でも、その答えが出るまでの時間そのものにも価値があるのではないか。
相手との距離がまだ定まっていないからこそ、一度の食事や短い時間が強く残ることもある。
そこを急いで先へ進めず、その曖昧さをあえて物語として残してみたいと思いました。
今回の二人も、正しい人たちではありません。
迷うし、欲もあるし、言っていることと行動が一致しないこともある。
それでも完全に割り切ることはできない。
そういう矛盾を抱えたまま、二人なりの距離を探していく。
そこがこの四部作の中心になりました。
書き始めた時には、四話になるとは思っていませんでした。
一話を書き、その続きとしてもう一話。
さらにその先を書いているうちに、結果として四部作になりました。
最後まで書いてみて思うのは、自分にとってかなり意味のある挑戦だったということです。
「こういう書き方もできるかもしれない」
そう思えたことが大きかったです。
これからも、自分の作風を一つに固定せず、いろいろ試していきたいと思っています。
これまであまり扱ってこなかった題材。
今までとは違う人物。
会話を中心にした作品。
反対に、ほとんど言葉を使わず情景で見せる作品。
そういうものにも、これから少しずつ挑戦していきたいです。
書き続けていると、自分の中にも癖ができてきます。
それは決して悪いことではないと思います。
ただ、ときどきそこから外れてみることで、今まで気づかなかった書き方が見つかることもある。
今回の四部作は、自分にとってそういう作品になりました。
読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました。
まだ読まれていない方がいましたら、よろしければ第一話『曲が終わるまで』から覗いていただけたら嬉しいです。
四つの話を通して、二人の距離が少しずつ変わっていく物語になっています。
そして最終話は、
『曲が終わった』
です。