子供の頃から、不思議なものが見えていた。 人の感情の揺れや、言葉の奥に沈んだ色のようなもの。 皆も同じだと思っていた。 けれど、成長するにつれ知った。 見えているのは、私だけなんだーー 人の心に寄り添う言葉がけが得意だった。 多くの人の心に関わった。 それで上手く生きられているのだと思っていた。 でも、いつからだろう。 人と話すことが、少しずつ苦しくなっていった。 人間は、よくも悪くも嘘をつく。 笑顔も、優しさも、言葉も全部嘘にまみれている。 誰もが綺麗な核を持っているのに、どうして自分自身で穢してしまうのか分からなくなった。 私には沢山の友達がいる。 神社や寺、山や川、街中にだっている。 彼らはある程度成長すると、歳を取らなくなる。 そして――時々、酷く傷ついて帰ってくる。 霊山に住む、友達に会いに行った時だった。 祓所(はらえどころ)の苔むした土から、少しだけ顔を出していたものを掘り起こした。 それは小さな壺だった。 幼く、何も知らない私は、忠告を忘れ開けてしまった。 溢れ出す黒いもやもや。 どんどん大きくなり、重く垂れ込むような声で何か言っている。 恐怖に抱き込まれ声が出ない……ついに目が合ってしまった。 黒いもやもやが一気に襲いかかってくる! 飲み込まれそうになったその時――友達が私を庇った ……大怪我を負わせてしまった。 無闇に拾ったものを、触ったり、開けたりしてはいけないと…… あんなに言ってくれていたのに…… 彼らはずっと、人知れずこうして人間を守っている。 何らかの形で、人間に危険を知らせる。 私は、友達の忠告を忘れ、大怪我をさせてしまったという思いから、しばらく神域には立ち入らなかった。 でも、彼らは、私の心が癒えるまで、ただ静かに待っていてくれた。 今も、彼らは友達だ。 聖域を汚せば穢れが生まれる。 捨てられたゴミには穢れが集まりやすい。 生まれたばかりの幼い「友達」たちが最初にその被害を受ける。 どうか、私の友達の住処を汚さないであげて欲しい。 けれど、彼らの姿は誰にも見えない。 ある日の早朝、朱の回廊を一緒に歩いていると彼らは言った。 「零(れい)。君の名前は零だよ。伝えたい思いを書くんだ」と。 雨が上がり、空が咲く。 ーー空咲 零(そらがき れい)が生まれた。 傷つきながらも、静かに人を守り続ける彼らのことを。 少しでも、多くの人に届けば嬉しい。
カクヨムネクストの公式アカウントです。
カクヨム運営公式アカウントです。