本章では、現行の呪術体系がいかなる背景のもとで成立したかを解説する。
現行体系を理解することは、単なる知識習得にとどまらず、術式運用の基礎であると同時に、戦場における事故防止および連携確保に直結する。
一.体系化以前の呪術運用
人鬼大戦以前から初期にかけて、陰陽師は各自が独自に開発した呪術を行使していた。
これらの呪術は、個人、あるいは少数の見知った仲間内での鬼討伐においては十分に機能しており、当時は大きな問題として認識されていなかった。
しかし、戦争という形で戦場規模が拡大すると、以下の問題が顕在化した。
・術式の効果および影響範囲が共有されていないことによる誤射
・他者の術式を前提としない設計による連携不能
・指揮官が術式内容を把握できないことによる判断遅延
これらの問題は、術者個人の技量不足に起因するものではなく、呪術運用が個人依存であり、体系化されていなかったこと自体が、根本的な原因であった。
二.標準化呪術体系の制定
上記の状況を受け、陰陽庁は既存の呪術を調査・分類し、戦場運用に適さない要素の整理および削減を行った。その過程において、個人呪術の派生元を遡り、同系統の術式を統合し、効果に寄与しない装飾的・演出的要素を排除した。
その結果、以下の原則に基づく標準化呪術体系が制定された。
・呪術を効果札および属性札に分割すること
・札一枚あたりの呪素充填量を統一すること
・等級制(初級・中級・上級)を導入すること
これにより、術式の規模、性質、危険度を事前に共有可能な形で運用することが可能となり、戦場における指揮・連携の円滑化が実現された。
三.詠唱の役割について
現行体系における詠唱は、呪術札に記された呪文をそのまま読み上げる行為を指すものではない。詠唱は、以下の二つの役割を担う。
・呪素流入開始の合図
・周囲の味方に対する術式内容の共有
すなわち詠唱とは、術者個人のための行為ではなく、戦場全体の安全性と連携を確保するための合図である。また、呪術が個人技から集団運用技術へと移行したことを示す要素の一つであり、現行呪術体系において重要な位置を占めている。
(『陰陽師採用試験対策教本』第三章より抜粋)
例題一
現行の呪術体系が制定された理由を三つ上げよ。
(仁保八年度 陰陽師採用試験)
例題二
あなたは単独任務に従事する陰陽師であり、随行する味方術者は存在しない。同行戦力は、あなたと式神契約を結んだ転生式神一体のみである。
この状況において、あなたは詠唱を行うか。行う場合はその理由を、行わない場合はその判断基準を記述せよ。
(営悠一一年度 陰陽師採用試験)
例題三
戦闘中、あなたは敵の攻撃により喉部に損傷を受け、音声による詠唱が不可能となった。
ただし、意識は明瞭であり、札の使用および呪素操作は可能である。この状況下において、あなたは呪術を行使するか。
行使する場合は、想定される危険とその対処を含めて記述せよ。行使しない場合は、その判断理由および代替行動を記述せよ。
(営悠一二年度 陰陽師採用試験)