知人が「ノスタルジーこそが最高のエンターテインメントではないか」と述べていた。ここを抜き出して小見出しなどにされるとかなり言いたいこととズレてくるが、私がそれを聞いて思ったのは、認めたくない、ということだった。私はとてつもなくノスタルジーが好きだが、ノスタルジーが好きな自分のことは嫌いだった。あの頃はよかったといって過去を愛でているのは、現実に対する復讐心でしかないのではないか。もちろん時間旅行が出来ればそれは楽しいだろう。でもそれは叶わない。前に進むしかない。進まなければ「時に置き去りにされ」るだけだ。必要以上に過去を懐かしむのは、時から阻害されたものの憾みに過ぎない。フィクションが優れているのは、私たちを"知らない過去"に連れて行ってくれるからだ。それはもはや単なるノスタルジーの対象ではない。余談だが、そういう郷愁を私はかつて"Ghostalgia"と定義したことがある。今回取り上げた作品――別にそのことが主題というわけでもないが――からそういう自由や不自由、それから尊さを感じてもらえればよいと思う。

ピックアップ

雨に蓋されて、燻った煙草の匂いが新宿に閉ざされる。

  • ★★★ Excellent!!!

たまたまかもしれないが、こういう作品をカクヨムで見かけることが少ない気がしたので、今回出会えたことは嬉しかった。
青臭いセンチメンタリズムの凝縮だが、私のような経歴の人間には刺さるしかなかった。

ところで、センチメントにも時代性がある。たとえばサルトルのそれと村上春樹のそれと椎名林檎のそれは、それぞれ異なっている。
そのセンチメントはしばしば失われたものへの郷愁や不能感と結びついており、その上で段階的な差異があり、その中では最近の鬱屈を表現しているように思われた。
内容はいまだ習作に留まっていると思うが、サルトル、三島由紀夫、村上春樹、椎名林檎というある種の退廃の経路を辿りながら、「三月の5日間」を書いた岡田利規の影に伴走している感じもあり、何かが終わったように見えて、これから始まるのだという予感を抱かせる内容だった。

クールではなくハイライトの湿気た匂いが漂う新宿のどん詰まった感じに浸り続けることができず、時の経過にやられていく様子の残酷な青臭さにはたまらないものがある。アイコスも、雨の日は不味いのだろうか。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=村上裕一)

事故死、後、転生した彼は、その後の人生で何を得たのだろうか。

  • ★★★ Excellent!!!

本作を読んでいると泣きたくなってくる。
生まれ変わりという奇跡のもとに構成された作品だが、その奇跡によって日常のあらゆる尊いものが明るみに出されているからだ。

タクヤはダンプカーにはねられて死ぬが、その死ぬ日までの出来事が追われるにおいては、その日に向かってのカウントダウンがされる。
明日死ぬと思って今日を過ごせという自己啓発のよくある警句があるが、そんなことは不可能だ。仮定と事実では決定的に異なる。
決定された死を横に置くとき、何の変哲もない日常のかけがえの無さ、当然と思っていた家族の存在の嬉しさが突き刺すようにこみあげる。
喪失の悲しみは、誕生の喜びと伴走している。

一応、作品の眼目としては、転生したタクヤが、彼女だったミキと15年の差を超えてもう一度関係を取り戻せるかということになっており、それも重要でないことはないのだが、ひとまずは読者には、異化されたこの日常を愛してほしいと思う。
最後にどういうことになろうとも、彼らが生きた証は私たちが知っているのである。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=村上裕一)

"貴方の見てきた物語は、貴方だけのものではない"

  • ★★★ Excellent!!!

これは「夢十夜」風の妖怪アンソロジー作品のようでありつつも、実は一つの計画によって構成された物語でもある。

続編にあたる作品も存在していて、そちらの方がさらに過激になっているが、単なる物語ではなくて一種のパズルのような仕掛けがあり、作者や作中人物の"意図"が言わばその仕掛けによって迷彩されたり、また実行されたりしている。これを可能にしているのが貸本――もっと言えば"本"というモチーフだが、本を編むことにこれだけの思いが巡らされているというのは、しばしば忘れられがちなことなのかもしれない。

とはいえ、本とは読まれることによって成立する経験なのであって、その当たり前だが尊い事実に単に出会い直しているだけとも言える。
ことほどさように機知に満ちた作品だが、まだ洗練の余地が多いようにも思われる。
特に「自分が登場しなかったことにしたい」という言葉――妖怪――作中人物の存在については非常に重要な着眼点であり、さらなる掘削を期待したい。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=村上裕一)

愛さずにはいられない、不条理な彼女と何人かの周辺人物たち

  • ★★★ Excellent!!!

筆者の彼女や上司などの面白発言を集めた作品集である。
いちいちの出来事が些細すぎて逆に愛おしい。もちろん、わざわざ作品としてネタにするだけのことはあって、いわゆる「あるある」ネタとは一線を画した珍妙さだ。
一本10秒で読めるのでとりあえず見てみてほしい。
何らかの意味で笑えるやりとりに出会えること請け負いと言えるだろう。

私は14話あたりが好きだ。ところで表題は映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』のテーマソングからの引用だと思われるが、これは普通の英語だと考えると意味が取りにくい。
TIME(とき)とはファースト・ガンダムに登場したララァ・スン最期の言葉「ときが見える」に由来しており、それは彼女の死の間際に見えた世界認識そのものであって、それを超えるというニュアンスが劇場版のテーマとして込められたものと思われる。
その言葉がここに引用されているのは、些細な一幕の尊さを意識してのことなのだろう。違うかもしれないが、私はそう思った。

ほっこりする楽しいやりとりも、こうして記録されなければ、いずれ当事者たちとともに忘却されてしまうフラジャイルなものなのだ。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=村上裕一)

物語に入れる魔法の本が、ゲームも、そしてこの世界も変化させる。

  • ★★★ Excellent!!!

遺産暮らしのフリーター・沢野井誠が、異世界にワープして冒険するというのが表面的な要約だ。
とすればこれは異世界ものではないのか。ここに本作独特の立ち位置がある。

陳腐化した異世界ファンタジーにおいては主人公がワープすることは前提であって改めて論ずべきものではない。しかし本作では、近所の古書店で「物語の中に自由に入れる本」を手に入れたのがきっかけとなる。

このことで誠は様々なゲーム世界に入れるようになる。それは一見すると普通のMMORPGものの作品と同じようである。
しかし、ここで潜入している物語は、リアルなMMORPGの仕組みによって支えられているのではなく、ゲームであるにもかかわらず純然たる別世界であり、現実と等価値である。その証拠に、誠がゲーム内で手に入れたスキルは、元の世界に戻ったあとも使用することができる。しかも、本の能力はゲームに入ることではなく「物語」に入ること。それゆえ、未知の物語に誠は迷い込むことにもなるのだが……。

まさに一歩先の現世を軸に異世界ものを読み替えた"現代ファンタジー"だ。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=村上裕一)