第39話

「誤解じゃないよ」

 尚仁は沙耶を自分のほうに向かせた。


 沙耶の心臓がどきっと大きく震えた。

「昔から、君のことが好きだった」

 尚仁がまっすぐに見つめるから、沙耶はとっさに目をそらした。


 好きだったって言われた。過去形だ。だけど、まるで今でも好きみたいな言い方だ。

 そんなふうに言われたら、期待してしまう。


「連絡がとれなくなって、諦めていた。でもこうしてまた会えた。俺はもう君と離れたくない」

 心臓がどきどきと脈うつ。離れたくない、と頭の中で声がリフレインする。


「猫を飼いたかったというのは嘘じゃない。だが、女の気をひきたかったのかと言われて俺は否定できなかった」

 怪訝に思って沙耶が顔を上げると、尚仁と目があった。彼は微笑を浮かべたままだ。


「君の気をひきたかったから」

 沙耶は目をまたたかせた。


「同窓会で猫を飼ったと君に言ったら、きっとそのあとも会えると思って。動物アレルギーになってるなんて思いもしなかったし、結局君は欠席だったけど」

「本当に……?」


「信じてくれないの?」

「だって」


 だが、彼が本当にそう思っていたのだとしたら、自分はまんまと策にはまっていた。確かに、疑問に思ったことがあった。いろいろ調べていそうなのに沙耶に質問してくることを。


「俺は最初から恋人はいないって言ったよ。君が特別だ、とも言った」

「そう……だったね」

 てっきりからかわれているのだと思っていた。


「今後はこんなことのないように、ちゃんと俺の専属になって」

 専属って。どういう意味で言っているんだろう。微笑の奥の真意はどこにあるのだろう。


「ダメ?」

「ダメじゃないけど……」

「けど?」


 なんて言ったらいいのかわからない。専属とはつまりつきあうということで合っているのか。沙耶はだけど、それを聞き返せない。違っていたときの衝撃が大きすぎるから。

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