14◆生き恥

 ノアと一緒に食事をして、ブランシュは彼の口から亡き皇帝の話を切れ切れに聞いた。

 たったそれだけで、彼がどれほど皇帝を慕っていたのかが伝わった。それほど大事な主君を喪ったノアが平然と日常を過ごせるはずもなく、彼の心はズタズタに傷ついている。

 今更ながらにそれを思った。


 だからあんなにも無気力で、すべてに投げやりなのだ。本来の彼はこうではなかったのだろう。

 悲しいけれど、ブランシュにはどうしてあげることもできない。


 それでもノアは、追い込まれた状況であるにも関わらず、ブランシュに優しかった。

 噂に聞くような勇猛な将軍としての顔ではなく、あれはノアが本来持つ優しさなのだと思える。そんな彼だから、皇帝も信頼していたに違いない。


 ノアが皇帝を守りきれなかったというけれど、誰よりも彼自身が自分を責めている。これ以上の処罰は必要なのだろうか。


 できることならば、彼がこれ以上苦しまなければいい。

 ブランシュも人の心配をしているゆとりはないはずなのに、今は自分のことよりもノアのことを考えていた。




 その後、ノアはブランシュが使いたければ湯殿を使っていいと言ってくれた。


「探してみたが、着替えになりそうな服が見つけられなかった。メイドの仕着せくらいならどこかにあるはずだが、どこにしまってあるのかわからない。寝るだけならこれでもいいだろうか?」


 妙にすまなさそうに言われ、手渡された服はとても手触りがよかった。服は今着ているものしかなくて、その上とても汚れているので湯殿で洗わせてもらいたい。


「ありがとうございます。お借りします」

「ああ。おやすみ、ブランシュ」


 ノアはほんの少し笑顔のような表情を浮かべ、部屋を出ていった。

 なんだろう。名を呼ばれた時、言いようがないほど嬉しかった。

 誰かに名前を呼ばれたのが久しぶりだからだろうか。




 ノアに湯殿の場所を教えてもらって、その通りに向かった。

 猫脚のバスタブに湯が満たされていて、ノアに感謝しながら湯を使わせてもらった。石鹸の泡立ちがとてもよかったので高級なものなのだろう。


 体があたたまり、汚れを落とすと、心も落ち着く。

 けれど、ふと、こんな状況は長く続かないのだと気づいてしまう。


 今にノアは帝都に赴き、処分を受ける。その後、彼がここへ帰ってくるまでにはどれくらいかかるのだろう。


 降格して、また戦地へ向かわされるのだろうか。

 強い人だと思うけれど、人間だ。命はひとつしかない。

 今度はノアが戦で命を散らさないとも限らなかった。


 そう考えたら、湯に浸かっているのに体の芯がまた冷えたような感覚がした。

 ノアは、むしろそれを望んでしまわないだろうか。

 出会ってそれほど経っていないのに、彼なら生き恥をさらしていたくないと考えそうな気がした。

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