1980年代の地方進学校を舞台にしたミステリー作品です。当時のヒット曲や世相といったディテールが的確に配置されており、その時代にタイムスリップしたかのような高い没入感があります。作家の辻村深月さんの作品を彷彿させます。
本作の最大の魅力は、連続殺人の謎解きというサスペンス要素と、登場人物たちの「青春の痛み」が論理的かつ立体的に交差している点です。優等生が抱える将来への葛藤や、不良少年の不器用で純粋な恋愛など、彼らの内面が非常にリアルに描かれています。
平和な学園生活と恐ろしい殺人事件という明暗のコントラストが絶妙で、「解けない方程式」というタイトルの謎掛けが読者の知的好奇心を強く刺激します。ノスタルジーと本格的なサスペンス展開を同時に味わえます。
ただし、ミステリーにおける「問題編」のプロローグ(事件の発生段階)に過ぎず(私が読み取れた範囲では)、解決にたる情報が出きっていない点は、読者によっては大きなマイナスポイントなので読む前に提示されているべきかもしれません。
教室のざわめき、部活動の熱気、進路への焦り、恋に揺れる心。
本作には、青春という言葉だけでは括れないほど、生々しく、眩しく、少し危うい高校時代の空気が閉じ込められています。
舞台は1980年。今とは異なる価値観や学校文化が丁寧に息づいていて、その時代を知る人には懐かしく、知らない世代にはまるで一つの異世界を覗くような新鮮さがあります。
特に魅力的なのは、ミステリーでありながら「事件」だけを追わせないところ。若さゆえの自意識、友情、恋、立場の違い、正しさの衝突――そうした人間の感情そのものが物語を動かしているため、登場人物たちが単なる謎解きの駒に見えません。
軽やかな青春の日常と、その足元に忍び寄る不穏さ。その温度差が次第に読者を物語の奥へ引き込んでいきます。
題名にある「解けない方程式」とは何なのか。
答えを知りたくて読み進めるうちに、いつの間にか問いそのものが心に残る。
青春ミステリーが好きな方はもちろん、人間の弱さや若さの危うさまで描いた物語を読みたい方にもおすすめしたい私も好きな一作です。