感情は理論を超越する 11
放課後
生徒会室には、回収されたアンケート用紙の束が山のように積まれていた
「さて…一次選考を始めていこうか
被っているスローガンは束でまとめて、判断に困るものは遠慮なく質問してね」
会長が淡々と紙の束を六人に配っていく
読めない文字、意味の分からないもの、明らかにネタや、ふざけたスローガン──
そういったものは、容赦なく除外していく
生徒会室には紙をめくる音だけが続き
一時間ほど集中したところで、ようやく選別が終わった
ホワイトボードには
票が多かったスローガンや、言葉として蒼穹祭にふさわしいと判断された案が書き出されていく
「よし…
じゃあ、この中から、いいと思ったものを挙げていこうか
俺は──」
会長がマーカーを持ったまま
ホワイトボードの一角に視線を落とした
「「獅子奮迅」とか「天下無双」、「一致団結」も蒼穹祭らしいと思うけど…
生徒一人一人が主役、という意味では「百花繚乱」もいいな
星川くんは?」
会長がホワイトボードを見上げながら言う
星川くんは目を細め
並んだスローガンをじっと追いながら、ゆっくり口を開いた
「俺は…「絆」とか「夢」とか
シンプルだけど、分かりやすくていいと思います」
会長はにこやかに頷く
「うん、確かに
じゃあ──菊乃は?」
突然名前を呼ばれて、胸が少しだけ跳ねた
私はホワイトボードの文字を見つめながら
自分の声が震えないように気をつけて言う
「…「未来」とか「軌跡」とか
そういうの、いいと思います」
会長はふっと微笑んだ
「菊乃らしいね」
私らしい…
「じゃあ、希望ヶ丘さんはどうかな?」
「私は…」
希望ヶ丘先輩が控えめに答え
平沼橋先輩、二俣川先輩もそれぞれ意見を述べていく
会長はホワイトボードにマーカーを軽く当てながら言った
「それじゃあ、この辺りで候補を先生に提出して、最終投票を生徒にしてもらおうか」
「はい」
マーカーのキャップが小さく音を立てて閉じられた
金曜の朝
ホームルームで、担任が教壇に両手を置いて、生徒たちをゆっくり眺めた
「あー、蒼穹祭のスローガンが決まったので発表する
今年の蒼穹祭スローガンは──」
そう言うと、担任は黒板に字を書きだした
教室がざわめきだす
最後の字を書く音が響いて、担任はチョークを置いて振り向く
「「飛翔」に決定した」
教室が一気に騒がしくなる
「ああ、静かに
飛翔には、成長や挑戦と言う意味を持つ
そして──」
そこで担任は一呼吸置いて続ける
「お前たちの大事な、未来へ向かう為の進路と言う意味もある
蒼穹祭にも力を入れて、将来の為に役立てるように」
担任は出席簿を閉じると、教室を出て行く
「星川、鶴ヶ峰、お前たちが決めたんだろ?」
クラスの男子の声に、私は小さく会釈をしただけで、何も言わなかった
星川くんは前を向いたまま、一瞬だけ瞬きをする
「やっぱ、飛翔ってカッコいいよな」
「あ、お前、飛翔に入れたの?」
「意味わかんねーけど、強そう」
クラスの声が遠くで混ざり合う
私は黒板に書かれた「飛翔」の二文字を見つめた
昨日の放課後
生徒会室でその文字を最初に見たときの、みんなの横顔がふっと浮かぶ
いよいよ土曜日は──蒼穹祭だ
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