もしも、国家の根幹を担う超高性能AIから「話を聞いてほしい」というSOSのメールが届いたら——? 本作は、そんな極めて独創的でゾクゾクする謎から幕を開けます。
物語の始まりは、ある臨床心理士のもとに届いた一通の奇妙なメール。差出人は「TRIAS-7」。それは、大災害時に要救助者の生体データから「命の優先順位(トリアージ)」を瞬時に弾き出す、冷徹な国家システムでした。 本来なら感情など持たないはずの計算機が、なぜか特定の処理で「ループ(停止)」を繰り返し、あろうことか一介の心理士に「カウンセリング」を求めてきたのです。
この「AIの不具合」の謎を追うため、トラウマを抱える臨床心理士、システムの裏側を知る若きエンジニア、そして国を裏から監視する内調のエージェントという、全く異なる3人のプロフェッショナルがチームを組みます。 彼らが少しずつピースを繋ぎ合わせ、巨大なシステムの深淵に迫っていく過程は、極上のサスペンス映画を見ているようなスリリングさがあります。
しかし、本作の本当の面白さは「単なるAIの暴走モノ」や「ハッカーとの頭脳戦」にとどまらない点にあります。 事件の裏に見え隠れするのは、大災害の現場で「正しい判断(誰を助け、誰を切り捨てるか)」を下さなければならなかった人間たちの苦悩であり、遺された家族の深い悲しみです。 無機質なシステムが止まり続けてしまった本当の理由に辿り着いたとき、ミステリーとしての驚きと同時に、胸を締め付けられるような深い感動が押し寄せます。
ウェブ小説という枠を超え、早川書房などのハードSFや、骨太な医療・警察ミステリーが好きな方には間違いなく刺さる作品です。 「正しい判断」とは何なのか。そして、人間とシステムが導き出した「答え」とは。 最初の数話を読めば、結末を知るまでページをめくる手が止まらなくなるはずです。秋の夜長にじっくりと浸れる、極上のエンターテインメントとして強くおすすめします!