華やかな逢瀬の余韻と、
その奥に潜む空虚。
この短編が描くのは、
そのふたつの間で揺れる女性のひそやかな独白である。
高級ホテルでの洗練された会話劇が心地よい。
「狩場」「娑婆」といった言葉選びに、
主人公の聡明さと、
どこか醒めた眼差しが滲んでいる。
だからこそ、終盤の転調が胸に迫る。
「あの可哀想なダウンコートから逃げたくて必死にあがいてここまで来たけれど」
——バーゲン買いのダウンから零れる羽毛と、
都心の人工の森に舞う雪。
ふたつの白い断片が重なる瞬間、
彼女の現在地が残酷なほど鮮やかに浮かび上がる。
頬に触れた雪が涙の代わりをし、
手のひらの上で真実が溶けていく。
その静かな幕引きに、
読む者もまた問いかけずにはいられないだろう。
——私たちは本当に、あの頃から遠くまで来たのだろうか、と。