第41話 ありがとう
氷月 四日
森は
静か。
それだけ。
男と
馬に乗る。
森を
歩く。
森が
軽い。
それだけ。
館に
戻る。
火を
起こす。
男が
言った。
「いつから
ここにいる」
我は
答える。
「母が
いなくなってから」
それだけ。
男は
何も言わない。
火が
小さく
爆ぜる。
男が
言った。
「ノクが
やらなくちゃ
ダメか」
そのとき
火が
強く揺れる。
空気が
少し重い。
男の
呼吸が
乱れる。
我は
見る。
「なに」
男が
言った。
「わからない」
それだけ。
我は
隣に
膝をつく。
男の
頭を
抱える。
「深呼吸」
「大丈夫」
男は
何も言わない。
我は
言う。
「我は
ここにいる」
それだけ。
火が
ぱちりと鳴る。
「居てくれて
ありがとう」
「独りでは
できなかった」
「居てくれたから」
「だから
ありがとう」
暖炉の薪が
崩れる。
火が
少し小さくなる。
それだけ。
男は
我の腕を
ほどく。
そして
言った。
「料理は
苦手なんだ」
それだけ。
ウンブラが
暖炉の前で
丸くなる。
火が
小さく
揺れる。
森は
静か。
それだけ。
灯守日誌 Argentum Lunae @Argentum-Lunae
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