実際に街を歩いているかのように、匂いや音まで体感できる描写の中で語られる、主人公の“朝歌”。
声だけではなく、さまざまな感覚を通して紡がれるその歌に、自然と引き込まれました。
物語の中で語られる、老人が知る外の世界。
その想像を掻き立てる話をもとに、主人公は禁忌の歌を作り上げていきます。
「どんな歌なのだろう」と、ワクワクしながら読み進めました。
読後に残ったのは、主人公も老人も「生きた証」を精一杯残そうとしていたのではないか、という静かな余韻でした。
そして音の残る街の情景を思い浮かべながら、わずか8000文字ほどの物語の中に込められた余白が気になり、もう一度読み返しました。
すると、何気なく読んでいた描写に、不意に頭を殴られたような衝撃を受けます。
紹介文にもある通り、この世界では音楽は“神への冒涜”として禁じられています。
だからこそ、歌が好きな人ほど、きっと自由に歌いたくなるのでしょう。
これまでの歌い手の中にも、主人公と同じ道を辿った人がいたのかもしれない。
そんな想像まで広がる作品でした。
多読な方なので半端ない数々の表現を吸収している影響もあるでしょう。しかし読むことと書くことは別物。
いざ表現に挑もうとすると、思うようにいかないことは多々経験することだと思います。
この作品、テーマとしての歌はもちろんのこと、手触り肌触り、触感や空気感まで、五感で味わう創造世界の読ませ方の見本市です。
内容そのものはもちろんですが、ぜひ皆さんの創作の刺激にしてください。うまく世界観が伝わらない? どうしても説明チックになってしまう? そんな時、本作はきっと道標になってくれるはずです。
小説という文字だけの表現で、無理なく自然に五感を動かされる、そんな読書体験がここにあります。
流麗な文調で描かれる異世界情緒に、たまらないほど心を鷲掴みにされていました。スラスラと読めて、かつ心に沁み入ってくるようで、約8000字ほどがあっという間でした。まずは強く、強く、おすすめ致します。
物語本編は異世界ファンタジーの世界観で、静謐に展開が進行し、それこそ神韻を読んでいくような心地です。
そんな中で、音楽の禁じられた世界で、唯一「歌い手」に選ばれた少年だけの歌が響き、老人と対話を交わしていく。ダークファンタジーの雰囲気に惹きつけられ、ある種の「異世界ミステリー」の情緒も持っていると感じました。
ラストの描写には多くの想像をかき立てられ、たっぷりの余韻が残る秀逸なエンディングとなっています。まるで歌が胸に響き続けるかのような読後感、是非ともご一読いただき、この感動を共有したいと願ってやまないほどです。